スマートフォンを使えないと不安が高まり、実行機能に障害 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(抄録)だけを読んだ不安(障害)・恐怖に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ不安(障害)・恐怖なのかというと、場面緘黙(選択性緘黙)児は不安が高いか、もしくは不安障害(不安症)を併発していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5では場面緘黙症が不安障害になりました。

今回は、スマートフォンからの分離で不安が高まり、実行機能が低下するという研究です。

なお、不安(障害)・恐怖以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事1⇒ラバーハンドとブラシの間に磁力を感じる錯覚
最近の記事2⇒でこぼこ/ざらざらしている物を触ると共感が高まる

Hartanto, A., & Yang, H. (2016). Is the smartphone a smart choice? The effect of smartphone separation on executive functions. Computers in Human Behavior, 64, 329–336. doi:10.1016/j.chb.2016.07.002.

シンガポールマネージメント大学の研究者2名による共著論文です。

○目的

スマートフォン(スマホ)からの分離が状態不安や実行機能に与える影響を調べることを目的としました。実行機能とは何ぞや?という方は「ウィスコンシンカード分類課題が苦手な社会不安障害患者」という記事を参考にしてください。ウィスコンシンカード分類課題とは実行機能課題のことです。

なお、「結果」に登場するシフティング、抑制制御、ワーキングメモリはすべて実行機能の構成要素です。シフティングとは柔軟な切り替え能力、抑制制御とは優位である行動を抑える能力、ワーキングメモリとは情報を保持、操作する能力のことです。ワーキングメモリは作業記憶、作動記憶とも言います。抑制制御に関しては抑制機能という表現も見かけます。先に述べたウィスコンシンカード分類課題の遂行にはシフティング能力が必要です。抑制制御の評価はGo/No-go課題やストップシグナル課題、ストループ課題などで可能で、ワーキングメモリの評価にはn-back課題やスパン課題などが用いられています。なお、子供の実行機能を測る課題として次元変化カード分類課題(Dimensional Change Card Sort task, DCCS課題)があります。DCCS課題はウィスコンシンカード分類課題の子供版と考えることができます。

○結果

実験の結果、スマホ分離が不安を高めました。また、スマホ分離→不安が高まる→実行機能の低下という媒介関係が見いだされました。実行機能の障害はシフティング(実験1)、抑制制御、ワーキングメモリ(実験2)のいずれにおいても生じました。ただし、シフティングの障害はスマホ中毒のレベルに関係なく生じたのに対し、ストループ課題で評価した抑制制御への影響はスマホ中毒の高低によって異なりました。

*ストループ課題については「内向的な人は外向的人間を演じても認知的負荷が生じない」を参考のこと。ちなみに、ストループ課題には情動ストループ課題というのもあって、それを用いた研究は「EEGバイオフィードバックで特性不安と注意バイアスが低下」や「吃音者も注意バイアスを示す(反応形式が口頭の場合)」に記しました。

○コメント

実はスマホ分離で不安が高まり、認知機能が低下するという研究は以前からありました(Clayton et al., 2015)。Clayton et al. (2015)によると、iPhoneユーザーが単語探しゲームをしている時に鳴っているiPhoneに出られないと、心拍数や血圧、不安感情、不快感が高まり、拡張自己感覚や認知機能が低下するそうです。

そういえば不安が高いとワーキングメモリが低いというメタ解析(メタ分析・メタアナリシス)論文(Moran, 2016)が最近でましたね。Moran (2016)によると、全部で22,061人の177のサンプルにおいて、自己申告の不安とワーキングメモリ能力の低さが関連するそうです(効果量Hedges'g =-.334)。この関係はオペレーションスパンテスト(Operation Span Test, OSPAN)などの複雑スパンテスト、ディジットスパンテスト(Digit Span Test, DST)などの単純スパンテスト、N-Back課題などのダイナミックスパン課題で認められたそうです(OSPANで効果量g = -.342, DSTでg = -.318, N-Back課題でg = -.437)。また、不安の誘導実験でもワーキングメモリの低下が確認されているみたいです。

では不安以外のネガティブ情動は実行機能とどのような関係にあるのでしょうか?Shields et al. (in press)によれば、実験操作で怒りを高めても実行機能は障害されず、不安を高めると実行機能が低下するそうです。

このように不安が実行機能を低下させる可能性が示唆されています。一方、実行機能を低下(あるいは向上)させる要因は不安以外にもあります。とあるメタ解析研究(Shields et al., 2016)によると、急性ストレスでワーキングメモリや認知的柔軟性が低下する一方、抑制機能への影響については微妙だったそうです(干渉制御は障害され、反応抑制は亢進するのだとか)。これらの影響は性別などの調整変数によって違い、コルチゾールが実行機能に与える影響とも異なる点があるそうです。

また、別のメタ解析研究(Shields et al., 2015)によれば、コルチゾール投与から時間をおかずに認知検査を実施した場合、コルチゾールの急性投与は反応抑制を高め(g+ = 0.113, p = .016)、ワーキングメモリを障害させる(g+ = −0.315, p = .008)そうです。しかし、コルチゾール投与から時間をおいて認知検査をした場合、結果が逆転するのだとか。また、コルチゾール投与はセットシフティングに影響しないみたいです。

さらに、また別のメタ解析研究(Yang et al., in press)によると、反すうが高いと抑制機能(r = ‒.23)やセットシフティング(r = ‒.19)が苦手な一方、ワーキングメモリと反すうは関連しないそうです。年齢や性別、課題の感情内容による違いは検出されず、抑うつ状態が強いか否か、正確性を指標とするか反応時間を指標とするかによる差異も検出されなかったそうです(ただし、検出力が低い)。

なお、実行機能を高める方法の1つに身体運動があります。とあるメタ解析研究(Verburgh et al., 2014)によれば、急性的な身体運動で抑制機能/干渉制御機能が高まるそうです。ただ、ワーキングメモリへの効果や慢性的な身体運動の効果は論文執筆時点では認められていないのだとか。そういえば、運動を1回するだけでも、状態不安が少し低下する(Hedge's g = 0.16, 標準誤差(Standard Error,SE) = 0.06)というRCTのメタ解析研究(Ensari et al., 2015)がありましたね。もっとも、運動が状態不安に与える影響は年齢や性別、健康状態、ベースラインの活動レベル、運動強度などによって異なるようです。もしかしたら、運動→不安の低下→実行機能の(部分的)正常化/改善という経路があるかもしれませんが、単なる憶測にすぎません。

○引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Clayton, R. B., Leshner, G., & Almond, A. (2015). The extended iSelf: the impact of iPhone separation on cognition, emotion, and physiology. Journal of Computer‐Mediated Communication, 20(2), 119-135. DOI: 10.1111/jcc4.12109.

Ensari, I., Greenlee, T. A., Motl, R. W., & Petruzzello, S. J. (2015). Meta-analysis of acute exercise effects on state anxiety: an update of randomized controlled trials over the past 25 years. Depression & Anxiety, 32(8), 624-634. DOI: 10.1002/da.22370.

Moran, T. P. (2016). Anxiety and Working Memory Capacity: A Meta-Analysis and Narrative Review. Psychological Bulletin, 142(8), 831-864. doi:10.1037/bul0000051.

Shields, G. S., Bonner, J. C., & Moons, W. G. (2015). Does cortisol influence core executive functions? A meta-analysis of acute cortisol administration effects on working memory, inhibition, and set-shifting. Psychoneuroendocrinology, 58, 91-103. doi:10.1016/j.psyneuen.2015.04.017.

Shields, G. S., Moons, W. G., Tewell, C. A., & Yonelinas, A. P. (in press). The Effect of Negative Affect on Cognition: Anxiety, Not Anger, Impairs Executive Function. Emotion, doi:10.1037/emo0000151.

Shields, G. S., Sazma, M. A., & Yonelinas, A. P. (2016). The effects of acute stress on core executive functions: A meta-analysis and comparison with cortisol. Neuroscience & Biobehavioral Reviews 68, 651-668. doi:10.1016/j.neubiorev.2016.06.038.

Verburgh, L., Königs, M., Scherder, E. J. A., & Oosterlaan, J. (2014). Physical exercise and executive functions in preadolescent children, adolescents and young adults: a meta-analysis. British Journal of Sports Medicine, 48, 973-979. doi:10.1136/bjsports-2012-091441.

Yang, Y., Cao, S., Shields, G. S., Teng, Z., & Liu, Y. (in press). The relationships between rumination and core executive functions: A meta-analysis. Depression & Anxiety, DOI: 10.1002/da.22539.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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