テストステロンでサブリミナルな怒り顔から視線を逸らすのが遅くなる | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
HOME   »   社交不安(社会不安)に関する興味深い研究  »  テストステロンでサブリミナルな怒り顔から視線を逸らすのが遅くなる

問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、全文を軽く読んだ、社交不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。アブストラクトと実験方法、実験結果だけを読むつもりが、全文読んでしまいました。このままではパソコンの使い過ぎで目が痛いのが解消されるはずもありません。ほどほどにしないと…。

なぜ、社交不安(障害)なのかというと、場面緘黙児(選択性緘黙児)は社交不安(社会不安)が高いか、もしくは社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)を併存していることが多いという知見があるからです。また、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き第5版)では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。

今回は、社交不安が高いとサブリミナル(閾値下)呈示された怒り顔から視線を逸らすのが早いが、テストステロンの単回投与でその傾向が弱まるという研究です。

なお、社交不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事1⇒姿勢を正すとポジティブ感情が高まり、疲労感が低下する
最近の記事2⇒ウィリアムス症候群の人はキャラ弁が理解できない?
↑ウィリアムス症候群とは、ウィリアムス-ボイレン症候群(ウィリアムズ-ボイレン症候群)とも呼ばれる神経発達障害のことで、ウィリアムズ症候群ともいいます。様々な身体疾患やエルフのような顔つき(妖精様顔貌)、高い社交性等が特徴なのですが、キャラクターの顔を模したキャラ弁を認識するのが苦手な人が多いかもしれないという研究が記事2です。

Terburg, D., Syal, S., Rosenberger, L. A., Heany, S. J., Stein, D. J., & van Honk, J. (2016). Testosterone abolishes implicit subordination in social anxiety. Psychoneuroendocrinology, 72, 205-211. doi:10.1016/j.psyneuen.2016.07.203.

オランダのユトレヒト大学心理学研究室、南アフリカ共和国のケープタウン大学精神医学精神衛生研究室&医学研究審議会(Medical Research Council,MRC)不安・ストレス障害部門&感染症分子医学研究所、カナダのトロント大学心理学研究室、オーストリアのウィーン大学神経精神薬理学生物心理学研究ユニットの研究者による論文です。

○実験1

最終的なサンプルサイズは35人。高社交不安群が18人(女性10人、男性8人、平均年齢20歳)、正常社交不安(統制)群が17人(女性7人、男性10人、平均年齢20歳)。

*高社交不安群と正常社交不安群の区別は自記式リーボビッツ社交不安尺度(Liebowitz Social Anxiety Scale-Self Report,LSAS-SR)得点による(70より高い得点の人が高社交不安群、36より低い得点の人が正常社交不安群)

・社会的支配課題(Social Dominance Task,SDT):固視(1000~1500 ms)→顔刺激の呈示(27 ms)→色のついたマスク刺激の呈示→次の試行

SDTは固視で灰色の十字図形に1000~1500ミリ秒視線を向けたら、十字図形の場所に眉間が来るようにして色付きの顔刺激を呈示し、顔と同じ色のマスク刺激の色と同じ色の円に視線を向けたらマスク刺激の呈示が終了(円は画面下に3つ表示し、普段は灰色だが、マスク刺激呈示フェイズではカラフルになり、3つそれぞれで色が異なる)。顔刺激や円で用いた色は青、緑、赤の3種類で、顔刺激の表情は中性表情、怒り、幸福の3種類。被験者の視線はアイトラッカーでモニタリング。

*SDTはマスク刺激の呈示で先行する顔刺激が認知できなくなる逆向マスキングの実験です。逆向マスキング実験は『扁桃体基底外側部損傷患者は恐怖表情に敏感』という記事で取り上げた研究でも実施されています。

・表情気づき検査(Expression Awareness Test,EAT):SDTの後に実施。SDTとほとんど同じ手続きだが、表情が非常に短い時間だけ画面に映ることを被験者に教示し、見たと思った表情を回答。回答形式は3つの選択肢からの強制選択。

実験1の結果、視線を逸らすまでの全般的な平均時間(潜時)は正常社交不安(統制)群で449 ms、高社交不安群で465 msと有意差が検出されませんでした。しかし、支配性指数(dominance Index)に群間差が検出されました。支配性指数とは、怒り顔から視線を逸らすまでの時間と幸福顔(笑顔)から視線を逸らすまでの時間の差のことです。

*視線を逸らすまでの時間は、顔の呈示から色のついたマスク刺激と同じ色の円形図形に視線を送るまでにかかった時間と定義。なお、どの実験条件でもマスク刺激と同じ色の円形図形にできるだけ素早く視線を向けるよう被験者に教示していました。

支配性指数によれば、高社交不安群は笑顔よりも怒り顔から視線を逸らすのが早い結果となりました。一方、統制群では笑顔の試行と怒り顔の試行とで視線を逸らすまでの時間に有意な差が検出されませんでした。中性顔と比較すると、群間差は怒り顔特異的であり、笑顔では群間差が検出されませんでした。

EAT(表情気づき検査)の結果、偶然よりも高い確率で表情を認知できていたのは1人だけでした。この人を除外しても結果は変わりませんでした。

○実験2

実験2の目的は、社交不安が高い群の潜在的な怒り顔からの逸視の素早さが、テストステロンの投与で低下するかどうかを調べることとしました。

最終的なサンプルサイズは15人。全員女性(平均年齢21歳)。自記式リーボビッツ社交不安尺度(LSAS-SR)得点が70より高い高社交不安者のみ参加。卵胞期に実験し、ホルモン避妊薬未使用。

プラセボ、テストステロン0.5 mgの投与方法は舌下投与を採用。ダブルブラインドクロスオーバー法(二重盲検交差試験法)で、2セッションの間の休薬期間(washout period)は2日間以上としました。プラセボ/テストステロンの投与は午前中の9時~12時の間に実施し、その4時間後から実験開始。

実験2では、最初に気分プロフィール検査第2版(Profile Of Mood States 2nd Edition,POMS-II)に回答。POMS-IIとは、一時的な気分や感情の状態を把握する際に用いられる質問紙、POMSの第二版のことです。

SDT(社会的支配課題)はクロスオーバー試験のどちらのセッションでも実施。EAT(表情気づき検査)は2回目のセッション時のみ実施。

実験2では人差し指と薬指の長さの比率(second to fourth digit ratio,2D:4D)も調査。2D:4Dは右手の撮像画像から数週間をおいて2回計測し、平均値を算出。2D:4Dは胎児期のテストステロンやエストロゲンの暴露量や感受性を反映しているとされます。胎児期にテストステロンを大量に浴びると、薬指が長くなると考えられています。胎児期テストステロン暴露量の違いで女性の2D:4Dは男性の2D:4Dよりも高くなる傾向にあります。人差し指との比率をとるのは、指の長さ自体が身体サイズと関連するためです。そういえば、2D:4Dの論文もいずれとりあげようと準備しているのですが、時間がなくて…。なお、2D:4D研究の第一人者で心理学者のジョン・マニング教授の本の翻訳書に『二本指の法則―あなたの健康状態からセックスまでを語る秘密の数字(早川書房)』があります。翻訳者は村田綾子氏です。


実験2の結果、プラセボ投与後に実験1と同じ結果が再現されました(社交不安が高いとサブリミナルな笑顔よりもサブリミナルな怒り顔から視線を逸らすのが早い)。なお、視線を逸らすまでの全般的な平均潜時はプラセボ条件で492 ms、テストステロン条件で486 msと有意差が検出されませんでした。

支配性指数で条件差が検出されました。つまり、プラセボ条件だと笑顔よりも怒り顔から視線を逸らすのが早かったのですが、テストステロン条件では笑顔と怒り顔で視線を逸らすまでの潜時に有意差が検出されませんでした。この条件差は怒り顔の時だけで、笑顔や中性顔では生じませんでした。

EAT(表情気づき検査)の結果、表情が何なのか偶然よりも高いレベルで識別できた人はいませんでした。プラセボ投与時とテストステロン投与時の識別正確性も偶然レベルにすぎませんでした。プラセボ条件とテストステロン条件で気分プロフィール検査第2版(POMS-II)得点が有意に異なることはありませんでした。テストステロンの効果は2D:4Dによって媒介されませんでした。

○コメント

以上をまとめると、

・社交不安が高い群はサブリミナル呈示された怒り顔から視線を逸らすのが早い(≒社交不安が高いと潜在的従順さ/従属的行動を示す)。

・少なくとも女性においては、テストステロンの単回舌下投与で、社交不安が高いことに伴う潜在的従順さが消失する/弱まる(潜在的な怒り顔から視線を逸らすまでの潜時が増加)。

・テストステロンの効果の原因は一時的な気分や感情への影響によるのではなく、表情への気づきが高まったという証拠もない。また、胎児期のテストステロン暴露量(を反映するとされる2D:4D)の影響は検出されない。


となります。神経進化理論によれば、社交不安は潜在的従順さと関連しているとされます。本論文では、潜在的従順さはサブリミナル呈示された怒り顔から視線を逸らすのが早いことと操作的に定義されています。これはヒトを含む霊長類において、向こうが視線を逸らすまで相手の怒り顔を見続けることが、支配性を印象付けるのに有効だと考えられているためです。逆に言えば、(相手の怒り顔から)視線を逸らすことは、直接対決を避ける従属的行動と言えます。また、テストステロンは競争や支配性を促すとされるステロイドホルモンです。したがって、テストステロンで社交不安が高い女性群の潜在的従順さが低下したという本研究は、理論的にも頷ける結果です。

今回はテストステロンを1回投与しただけの実験で、慢性的に繰り返し投与したらどうなるかは不明です。テストステロン投与の効果は女性でしか調べておらず、男性で似たような結果がでるという保証もありません。また、社交不安障害患者が参加した研究ではありませんので、臨床的な応用がどれだけできるかは不明です。

スポンサードリンク

Comment

スポンサードリンク

Trackback
Comment form
カテゴリ
ランキング
Twitter
スマートフォンサイト
Amazon書籍
場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

リンクについて
このサイトはリンクフリーです。リンクの取り外しはご自由になさって下さい。個別ページのSNSでの共有やブログ、サイトへのリンクも自由です。
プライバシーポリシー
当ブログはGoogle Adsense広告を掲載しています。Google Adsenseでは広告の適切な配信のためにcookie(クッキー)を使用しています。ユーザーはcookieを無効にすることができます。

なお、Google Adsenseで上げた収益は将来のホームレス生活を見越し、すべて貯金にまわしています。
免責事項
ブログ記事の内容には万全の注意を払っていますが、管理人はその内容の正確さについて責任を負うものではありません。

PAGE TOP