WebCBTのRCTでネガティブな結果(場面緘黙症) | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

場面緘黙児がCBT(認知行動療法)プログラムをWeb(ウェブ)で実施し、その効果を予備的RCT(ランダム化比較試験)で検証した論文を読みました。論文の著者の1人、Sharon C. Sung氏はかつて、『場面緘黙児へのコンピュータ補助による認知行動療法:シンガポールでの無作為統制試験の予備的結果』という研究発表でポスター発表の銅賞に輝いたことがあります。しかし、ポスター発表と今回取り上げる論文が同じ研究のものかどうかは分かりません。

Ooi, Y. P., Sung, S. C., Raja, M., Kwan, C. H., Koh, J. B. K., & Fung, D. S. S. (2016). Web-based CBT for the Treatment of Selective Mutism: Results from a Pilot Randomized Controlled Trial in Singapore. Journal of Speech Pathology & Therapy, 1: 112. doi:10.4172/jspt. 1000112.

★概要

○方法

21人の場面緘黙児が参加(6~12歳)。以下の2群にランダムに割り当て。いずれも期間は14週間で、服薬なし。両群に人口統計学的な有意差が検出されず。

・WebCBT群(10人):WebCBTプログラム、『Meeky Mouse』を使用。平均年齢8.70歳(SD:1.77)、男児4人、女児6人。華人9人、マレー人1人。併存症は分離不安障害(分離不安症)が1人、社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)が1人、特定恐怖症が4人。
・対照群(11人):コンピュータゲームをしながらセラピストと交流(セラピストが場面緘黙児と会話を試みるなど)。平均年齢8.55歳(SD:2.25)、男児4人、女児7人。華人9人、マレー人2人。併存症は分離不安障害が1人、社交不安障害が1人、特定恐怖症が1人。

Meeky Mouseとは、カナダのトロント小児病院(The Hospital for Sick Children,SickKids)で開発されたWebCBTプログラムのことです。今回はシンガポールでの臨床試験ということで、社会的、文化的に適切な内容に修正したバージョンを使用しました。ちなみに、トロント小児病院には緘黙症の遺伝子を探索するプロジェクトを進める研究者がおり、私が個人的に注目している緘黙研究グループの1つです。

Meeky Mouseは心理教育や不安マネジメントから成る8回の訓練セッションの後に、6回の練習セッションで暴露(療法)をしていきました。練習セッションでは、簡単なものから初めて段階的に難易度を高めていく方式で、親同伴のもとで施行。各々の練習セッションではソーシャルスキル訓練も併用しました。8回目のセッションからMeeky Soundpadを導入し、場面緘黙児の発話を記録、セッション中に再生して聞きました。つまり、自分の声を聞いて発話への脱感作を進めていったわけです。各々のセッションのホームワーク(宿題)の提出は毎週ネット経由で実施。

使用尺度(治療前後に回答)
・場面緘黙症質問紙(Selective Mutism Questionnaire:SMQ):家、学校、他の社会的状況での子供の発話頻度を測る質問紙。親が回答。
・アジア児童不安尺度保護者版(Asian Children’s Anxiety Scale-Caretaker Version,ACAS):子供の不安症状の重篤度を評定する質問紙。親が回答。
・アジア児童不安尺度児童版(ACAS-Child,ACAS-C):子供の不安症状の重篤度を評定する質問紙。子供が回答。
・CGI重症度(CGI-Severity,CGI-S):CGIとはClinical Global Impressionのことで、日本語にすると臨床全般印象度となります。CGI重症度では、治療にあたったセラピストが場面緘黙症の重症度を評価。
・CGI改善度:(CGI-Improvement,CGI-I):CGI改善度では、治療にあたったセラピストが、ベースラインと比べてどれだけ患児の場面緘黙症の改善/悪化が認められたかを評定。

○結果

・親が回答した場面緘黙症質問紙(SMQ):WebCBTの治療効果は検出されず、むしろ対照群の方が発話頻度が増加(14週間の前後の比較の効果量でd = -1.38)。

・親が回答したアジア児童不安尺度保護者版(ACAS):治療効果は検出されず。

・子供が回答したACAS-C:治療効果は検出されず。

・セラピストが回答したCGI重症度:WebCBT群のみ改善(d = 1.66)し、対照群では改善せず(d = -.36)。

・セラピストが回答したCGI改善度:対照群と比較して、WebCBT群の改善度が高くなった(d = -2.51)。

★コメント

要するに、

14週間の認知行動療法をウェブを基盤にして行っても、発話頻度(親評定)は改善せず、不安(親と緘黙児が評定)も改善せず、セラピストが評定した重症度、改善度のみ向上した

ということです。つまり、(一部)ネガティブな結果がでたというわけです。ネガティブな結果を忌避する人もいます。しかし、私としてはネガティブな報告をしてくれたのはありがたいと考えます。というのも、ポジティブな結果ばかりだと、どういう条件で治療成果が大きくなるか?という検討が十分にできないからです。ネガティブな結果がでた臨床試験とポジティブな結果がでた臨床試験を比較することで、より効き目がある支援方法を考案することが可能になります。

*セラピスト評定では場面緘黙児の重篤度、改善度で良好な結果が得られていましたが、後述するように、この結果を素直に受け止めない方が良いと私は考えます。

たとえば、論文によると、今回用いたMeeky Mouseプログラムは親や先生の関わりが低く、そこが先行研究とは違うとのことです(それでも本研究では親同伴の暴露セッションをやっていましたが…)。したがって、親や先生の関与を強めたプログラムでは効果が高まるかもしれません。親・先生の関与を強めたプログラムとの比較検証が望まれます。

*Meeky Mouse自体には親、先生向けのワークブックがありますが、本研究では使わなかったとのことです。

本研究に参加した場面緘黙児の平均年齢は8.55~8.70歳(範囲:6~12歳)でした。一方、場面緘黙児への行動療法の効果をRCTで検証した研究(Bergman et al., 2013)に参加した緘黙児の平均年齢は5歳(4~8歳)、心理社会的介入の効果を検証したRCT研究(Oerbeck et al., 2014)に参加した緘黙児の平均年齢は6.5歳(3~9歳)でした。年少児の方が緘黙症状が改善しやすくなるという報告(Oerbeck et al., 2014; Oerbeck et al., 2015)を踏まえると、もしかしたら本研究の方が年齢の高さゆえに場面緘黙症状が改善しにくいことがあったかもしれません。

SMQによる親への質問紙調査によれば、WebCBT群では発話頻度が増加せず、対照群で発話頻度が増加していました。対照群の内容はコンピュータゲームをしながらセラピストと交流するというものでした。もしこの交流に効果があるのだとしたら、簡単な介入方法になります。というのも、対照群は少なくとも意識的には認知行動療法の技法を全く使っていなかったので。ゲーム交流群と待機群との比較をする臨床試験も必要かもしれません。もっとも、平均への回帰や親の申告にバイアスがあった可能性もありますし、待機群を比較対照として、不安障害への心理療法の効果を検討するのは不適切だとする研究者もいます(Patterson et al., 2016)

親の報告でWebCBT後に発話頻度が増加しなかったのは、Meeky Mouseプログラムに対する親の過剰な期待が原因だったかもしれないという考察が論文で言及されていました(群の割り当ては参加者に最後まで明かさなかったのですが、心理療法は参加者自身が実践することなので、完全な盲検法はとれません)。つまり、実際には場面緘黙症が改善していたとしても、期待通りの結果がでていなければ、治療反応を低く評価することになるという説明です。

○場面緘黙児への認知行動療法の効果はそんなに高くない?

場面緘黙症状の緩和があったとされる先行研究では治療群と待機群との比較(Bergman et al., 2013; Oerbeck et al., 2014)であり、心理学的プラセボ(プラシーボ)群との比較ではありませんでした。今回、初めて心理学的プラセボ群と比較することで、(Web)CBTの効果は実際にはそんなに高くない可能性が示唆されました。効果があったとする先行研究も心理学的プラセボ群と比較すると、治療効果が検出されなくなる恐れさえあります。極端なことをいえば、場面緘黙児の治療に(認知)行動療法は必要なく、セラピストと交流するだけで良い(認知行動療法特有の技法は必要ない)ということにさえなりかねません。

ちなみに、Patterson et al.(2016)によると、不安障害に対する心理療法の効果を検証した研究で、比較対照の種類には3つあり、その内、待機群が73%と最も多いそうです。しかも、認知行動療法は心理的プラセボ群と比較するよりも、待機群と比較する方が効果量が大きくなるというメタ分析があるそうです。したがって、治療群と待機群の比較で心理療法の効果を検討した場面緘黙症のRCT研究は、治療効果が過大評価されているかもしれません。その点、今回取り上げた論文は心理学的プラセボ群との比較という点が長所です。

○他の不安障害(不安症)との併存率は?

場面緘黙児21人のうち、特定恐怖症の併存者が5人、社交不安障害の併存者が2人、分離不安障害の併存者が2人でした。仮に重複診断がないとすると、場面緘黙児21人中9人(43%)が他の不安障害を併せ持っていたことになります。これは心理社会的介入のRCT研究において、場面緘黙児24人全員が社交恐怖症(社交不安障害)を併存していたとの報告(Oerbeck et al., 2014)とは少し違います(他の障害もありますが、省略します。詳細はリンク先を参考にしてください)。なお、この場面緘黙児全員が認知行動療法を終了してから1年後の予後で社交恐怖症を併存していたのは19人(Oerbeck et al., 2015)と、5人は社交恐怖症から脱していました。しかし、今回取り上げた論文ではWebCBTが併存疾患に与える影響が述べられていませんでした。

○新規性、長所

本研究ではアジア児童不安尺度児童版(ACAS-C)を用いて子供が自身の不安症状を評定していました。場面緘黙児に対する心理療法の効果をRCTデザインで検証した研究で子供が自分で不安症状を評価したのはこれが初めてかもしれません。これは先に述べたように、本研究に参加した場面緘黙児の平均年齢が高いことと関係がありそうです。

なお、場面緘黙児に対する他のRCT研究(心理療法)で用いられた尺度・質問紙については「場面緘黙症のRCT行動療法の効果」や「心理社会的介入を場面緘黙児にしたRCT論文」を参考のこと。

場面緘黙症のRCT研究でウェブ基盤型認知行動療法を用いたのも今回が初めてかもしれません。先述したように、心理学的プラセボ群を比較対照群に設定した点も評価できます。

○問題点

治療前の場面緘黙症質問紙(SMQ)の結果の内、「他の社会的状況」因子のクロンバックのα係数が.25と低くなっていました。これは心理計量学的に問題で、少なくともシンガポールではまだまだ質問紙の改良の余地が残されています。

知能が低い場面緘黙児や自閉症、統合失調症に伴う緘黙児は除外されていました。したがって、これらの併発症がある緘黙児への効果は不明です。

本研究では、セラピスト評定の尺度を除き、WebCBTプログラムの効果が検出されませんでしたが、これだけで効果がないとは言い切れず、Meeky Mouseのセッション数を増やしたらどうなるか、期間を延長したらどうなるかなど、工夫の余地がありそうです。そもそも効果がないということを積極的に主張するためには帰無仮説検定でなく、ベイズ統計学を用いなければなりません。そういう意味でもまだまだ手探りの状態といえます。

サンプルサイズが小さく、検出力が低いのが弱点で、サンプルサイズを大きくする必要があります。しかし、サンプルサイズを大きくしなければ見つからないような小さな効果にどれだけ臨床的意味があるかも考えた方がよさそうな気がします。どれぐらいのサンプルサイズが適正なのか難しいところです。ちなみに、精神医学の治療研究で再現性を高めるならば、100以上のサンプルサイズが1つの目安となります(Tajika et al., 2015)

セラピストはCGI-SやCGI-Iで場面緘黙児の重篤度、改善度合を評価していましたが、盲検法を用いていませんでした。したがって、セラピストが治療の割り当てを知っている状態での評定なので、バイアスがかかっている可能性があり、あてになる指標ではありませんでした。今後の研究で方法論的な改善が望まれます。その点、場面緘黙児への行動療法の効果をRCTで検証した世界初?の論文(Bergman et al., 2013)では、治療の割り当てを知らない臨床医が場面緘黙症の診断や重症度、改善度、治療反応性の評定を行っており、方法論的に優れていることが分かります。

○その他

論文の最後の方ではフォローアップ(追跡)後に初めてWebCBTの効果がでる可能性が指摘されていました。これは、不安障害児に対する認知行動療法で寛解率が治療終了から6か月間の間に増加するという先行研究(Roberts et al., 2014)を思いおこさせるもので、ある程度の論拠があるかもしれません。

○引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Patterson, B., Boyle, M. H., Kivlenieks, M., & Van Ameringen, M. (2016). The use of waitlists as control conditions in anxiety disorders research. Journal of Psychiatric Research, 83, 112-120. doi:10.1016/j.jpsychires.2016.08.015.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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