選択性緘黙の維持期における認知行動モデル | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
HOME   »   緘黙症に関する論文、文献、学会発表  »  選択性緘黙の維持期における認知行動モデル

問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

選択性緘黙(場面緘黙症)のメカニズム、特に維持期における認知行動モデルの解明の手がかりを探索した研究があります。どうも社交不安症の認知モデルに関する研究を参考にして、選択性緘黙独自のモデルの作成を試みる取り組みのようです。本研究は2016年10月8日~10日にサンポートホール高松・かがわ国際会議場を会場とした日本教育心理学会第58回総会(担当校:香川大学)でポスター発表されます。大阪大学の高木伸也さんと大阪大学大学院の佐々木千恵さんが研究担当者です。

高木伸也さんといえば、南山大学人文学部心理人間学科の「カウンセリング研究ゼミ」の2014年度卒業生題目(卒業論文?題目)において、「長期化した場面緘黙に対する治療的アプローチの検討 ―認知情報処理アプローチの適用―」なる研究をされた方も高木伸也さんというお名前で同姓同名でした。同一人物でしょうか?なお、この卒業生題目では「注意バイアス修正訓練を長期化した場面緘黙に適用していくべき」だという主張がされています。

なお、注意バイアス修正訓練とは?という方は「ネガティブ表情から笑顔を見つける訓練で社会恐怖が低下」という記事などを参考にしてください。なお、注意バイアス修正訓練はスマートフォンでも実施でき、実際にその効果を二重盲検法を用いたRCT(ランダム化比較試験)デザインで検証した研究(Enock et al., 2014)があります。また、そもそも注意バイアスとはなんぞや?という方は「社交不安→ポジティブ評価恐怖尺度得点が高い→注意バイアス」という記事の「基礎知識1(注意バイアスとは?)」という項目を参考にしてください。

高木伸也・佐々木千恵(2016). 選択性緘黙の認知・行動に関する探索的研究 ―能動的側面と受動的側面― 日本教育心理学会第58回総会発表論文集, 718.

○目的

選択性緘黙の維持期における認知行動モデルの作成、および選択性緘黙の認知行動尺度の作成。

○方法

選択性緘黙を克服した女性3名を対象とした半構造化面接によるインタビュー調査(年齢平均21.3歳)。「過去に緘黙の診断をもっていたのは2名」。

選択性緘黙の「症状があった時期の脅威的状況および克服した現在における同様の状況の場合の双方を想定し,その状況下の認知・感情・行動・身体的変化について焦点を当てて質問」。

私はよく知らなくて、間違っていたら申し訳ないのですが、質的研究の内容分析という方法によってデータ分析をしたようです。

場面緘黙質問票日本語版、SMQ-R(Selective Mutism Questionnaire-R)を「二枚用意して回答を求めた(一枚目は SM の症状が一番顕著に表れていた時,二枚目は,現在の状態を想定する)」。その結果、選択性緘黙症状が一番重かった時期のSMQ-Rの平均得点は選択性緘黙児と同等レベルで、現在の状態は緘黙バリバリの時期よりも症状が改善していることが示唆されました(私の勝手な意訳)。

○結果

想起された状況として、「自己紹介の場面」、「スピーチの場面」、「話すことを強制させられる場面」があげられました。以下のように、認知と行動にはともに、受動的な側面と能動的な側面がありました。

●認知
・受動的認知:「受身的な考えやイメージ」(例:「自分の番でどうやってやり過ごそう」、「早く終わらないかな)
・能動的認知:「自発的な考えやイメージ」(例:「何を話そうかな」、「1対1の時のように話そう」)

●行動
・受動的行動:「受身的な行動」(例:「先生がもういいよと言うまで待つ」、「話せなくなる」)
・能動的行動:「自発的な行動」(例:「ネットでコツを調べた」「職場だったら頑張って話すようにする」)

「社交不安症の維持要因として考えられている自己注目や安全行動などは,緘黙を克服した現在においてもなお続いていた」そうです。

*安全行動(Safety behaviors)とは、たとえばパニック障害ならペットボトルに水を入れて持ち歩くといったように、脅威をコントロールしたり、避けようとする行動のことです。しかし、精神医学では安全行動は逆効果だとされています。安全保障行動や安全確保行動とも呼ばれます。

本ポスター発表の考察には「SM の維持期においては受動的側面が多く,克服した現在においては能動的側面が多く見られる傾向が示唆され」、「インタビューにおける文脈から<受動的認知>が<能動的認知>に変化して,それが<能動的行動>を促進していることが推測された」とあります。これを「受動的体験から能動的体験にシフトしている」と総括しています。そして、最後に選択性緘黙人への支援には「受動的認知という内的な側面に働きかける試み」が端緒となる可能性を指摘しています。

○コメント(以下、選択性緘黙ではなく、場面緘黙症とする)

対象者が「現在3名」となっていることが気になりますね。「現在」ということは今後も同様のインタビュー調査を実施し、最終的には場面緘黙症の認知行動尺度にまで昇華させたいということでしょうかね。

場面緘黙質問票(SMQ)やその日本語版のSMQ-Rは発話行動に注目しており、認知的側面は含まれていないという指摘はもっともだと思いました。ところで、第79回日本心理学会大会にて、名古屋学芸大学の今井正司准教授らの研究チームは、児童が選択性緘黙傾向を自己評定する尺度、SMS(Selective Mutism Scale)を開発したと発表しました(二宮他, 2015)。今井准教授らが開発した選択性緘黙(傾向)尺度は自記式尺度だけあって、どれだけ緘黙様状態の心の中(認知・感情等)まで調べられる尺度なのだろうかと改めて考えさせられました(私はSMSの具体的な質問項目を見たことがありません)。

*場面緘黙症の質問紙はSMQやSMQ-R、SMS以外にも、SSQ(School Speech Questionnaire;学校発話質問票)やSSQ(Speech Situations Questionnaire;発話状況質問票)などがあります。SSQ(学校発話質問票)は先生が子供の学校での発話頻度を評価する形式で、場面緘黙児への行動療法の効果をRCTで検証した論文(Bergman et al., 2013)場面緘黙児が認知行動療法を終えてからの1年間を追跡した研究(Oerbeck et al., 2015)において使用されました。SSQ(発話状況質問票)には親版(SSQ-Parent)と教師版(SSQ-Teacher)が存在し、場面緘黙症状があると思われる子供と親の共同注意を調べた研究で使用されています(Nowakowski et al., 2011)

ただ、本ポスター発表はあくまで維持期、あるいは改善期の話です。発症期の認知行動モデルではありません。発症期では、たとえば、「何を話そうかな」と考えていたのが、どうしても喋れない経験を重ねるうちに、「もういいや」となり、緘黙が固定化することもあり得ると思います。つまり、能動的認知が受動的認知になり、受動的行動が促進されるという順番で場面緘黙症が発症するケースが存在するかもしれません。したがって、緘黙症状の改善で受動的認知が能動的認知になり、能動的行動が促されることが示唆された本研究モデルを発症モデルにも活かすことが可能かもしれません。

*発症に期間があるか?という疑問を持たれた方は発症期という用語に違和感を感じるかもしれません。そのような場合には、場面緘黙症状が生じ始めてから間もない頃という意味で、「初期」という言葉のほうがしっくりくるかもしれません(「場面緘黙症状が生じ始めてから間もない頃」ってすでに発症しているんじゃ……という疑問があれば、緘黙リスクが高い時期から症状が固定化するまでの期間を初期とすると答えておきます)。

○場面緘黙症と社交不安(症・障害)の関係

本ポスター発表では場面緘黙症の背景には社交不安(傾向)があることが前提のように感じられました。場面緘黙症の結果として克服後に社交不安が高くなっている可能性もあり、この辺りはどうなのだろうかと思います。場面緘黙、あるいは緘黙と関連する諸特性ゆえの社会経験の未熟さから、社交不安が高くなっている場合もあるはずです。もっともこれは相互排他的ではなく、社交不安→場面緘黙・緘動→社交不安という可能性もあります。

また、場面緘黙児の全員が社交不安症を併存しているわけではありません。具体的には、場面緘黙児24人全員が社交不安症を併存していたという報告(Oerbeck et al., 2014)がある一方で、場面緘黙児21人(あるいは19人)中、社交不安症を併存していたのは3人だった(Edison et al., 2011)場面緘黙児21人中社交不安症を併存していたのは2人だった(Ooi et al., 2016)子どもまたは親が不安を評価した場合、社交不安症も含めて、臨床的意味のある顕著な不安を示した場面緘黙児は21%にすぎなかった(Sharkey & McNicholas, 2012)という研究も報告されています。

もっとも、社交不安症の診断基準を満たさなくても社交不安が高い緘黙児もいるでしょうから、緘黙児の全員に社交不安症がないからといって、(一部の)場面緘黙症の背景に社交不安がないとは言い切れません。実際、場面緘黙症でも社交不安症でもなんでもない健康な幼稚園児の「場面緘黙傾向」は社交不安以外の不安よりも社交不安との関係の方が強いという報告(Muris et al., 2016)もあることから、やはり場面緘黙(傾向)と社交不安は関係することがあるのでしょう。

なお、小学生の場面緘黙傾向と社交不安の違いは、ディタッチト・マインドフルネスとの関係にあることが示唆されています(ディタッチト・マインドフルネスとは「自らの感情や思考から距離をおいて観察する心的構え(距離を置いた心的構え)」のこと)。つまり、場面緘黙傾向は能動的注意制御を(部分的な)媒介としてディタッチト・マインドフルネスとの関係を有していると推測されるのに対し、社交不安は能動的注意制御とは独立にディタッチト・マインドフルネスと関係しているとの研究(今井, 2015)があります。

○引用URL(2016年9月25日現在):なお、高木(2014)の書式は私独自のもので「(場面)緘黙症の卒業論文、修士論文、博士論文」での書き方を参考にしました。
高木伸也(2014). 長期化した場面織黙に対する治療的アプローチ ー認知情報処理アプローチの適用ー 南山大学人文学部心理人間学科 指導教官不明 
https://www.ic.nanzan-u.ac.jp/JINBUN/Shinriningen/info/youshi/14kusumoto.pdf

高木伸也・佐々木千恵(2016). 選択性緘黙の認知・行動に関する探索的研究 ―能動的側面と受動的側面― 日本教育心理学会第58回総会発表論文集, 718.
https://confit.atlas.jp/guide/event/edupsych2016/subject/PG61/advanced
https://confit.atlas.jp/guide/event-img/edupsych2016/PG61/public/pdf?type=in

スポンサードリンク

Comment

スポンサードリンク

Trackback
Comment form
カテゴリ
ランキング
Twitter
スマートフォンサイト
Amazon書籍
場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

リンクについて
このサイトはリンクフリーです。リンクの取り外しはご自由になさって下さい。個別ページのSNSでの共有やブログ、サイトへのリンクも自由です。
プライバシーポリシー
当ブログはGoogle Adsense広告を掲載しています。Google Adsenseでは広告の適切な配信のためにcookie(クッキー)を使用しています。ユーザーはcookieを無効にすることができます。

なお、Google Adsenseで上げた収益は将来のホームレス生活を見越し、すべて貯金にまわしています。
免責事項
ブログ記事の内容には万全の注意を払っていますが、管理人はその内容の正確さについて責任を負うものではありません。

PAGE TOP