行動抑制は扁桃体の閾値が低いだけではない | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
HOME   »   行動抑制の論文  »  行動抑制は扁桃体の閾値が低いだけではない

問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

馴染みのない物や人を警戒し回避する行動抑制。子どもの行動抑制は将来、社会不安障害やうつ病になる確率を高めると言われています。今回は行動抑制の人は新奇性に対する扁桃体の閾値が低いとの説に意義を唱えた論文です。実は、扁桃体の「慣れ」が遅いだけではないかという学説を展開している研究をとりあげます。なお、行動抑制については。こちらをご覧ください。

Blackford, J. U., Avery, S. N., Cowan, R. L. Shelton, R. C., & Zald, D. H.(2011). Sustained amygdala response to both novel and newly familiar faces characterizes inhibited temperament. Social Cognitive and Affective Neuroscience, 6(5), 621-629.

★概要

抑制傾向がある人と行動抑制とは対極にある人を比較した研究です。平均年齢は約22~23歳です。人間の無表情な顔を見せている間、脳活動をfMRIで調べています。以前参加者に見せた顔(既知条件)と初めて見せる顔(新奇条件)という2タイプの刺激を用いています。この条件設定が実験のミソとなります。

その結果、行動抑制がある人は既知条件と新奇条件の両方で左右の扁桃体が活性化しました。一方、新奇な物や人に積極的に近づく人は新奇条件でのみ右側の扁桃体が活性化しました。つまり、抑制気質のある人はその対極にある人とは異なり、たとえ馴染みのある顔でも扁桃体が活発なままだったと言えます。

★コメント

この研究結果は次の論文中の一言に集約されています。

that is, the amygdala continues to show an increased response to familiar stimuli as though they were still novel.

拙訳:つまり、(行動抑制がある人は)まるで刺激がまだ真新しいかのように既知の刺激に対して扁桃体が賦活したままである。

扁桃体は同じ顔刺激を何回も呈示されると慣れて反応が弱くなることが知られています。しかし、この実験では行動抑制がある人には馴化が生じませんでした。このことから、筆者らは顔刺激を用いた曝露療法(不安を感じることをあえて行い慣れる療法)を提唱しているのですが、顔刺激を何度も見せられただけで症状が改善するのかどうか、はなはだ疑問です。

この研究は平均年齢が20以上の大人を対象としたものです。したがって、行動抑制をしめす幼児も扁桃体の馴化が遅いかどうかは分かりません。また、行動抑制の程度は自己申告で決定しています。実験者の観察に基づく判定は取り入れていません。

参加者に顔を見せる時間は秒単位と短く、実際の日常場面で同じことが起きているかどうかは分かりません。顔刺激を見せる時間を延長したり、日数を空けたりするとどうなるのか。より日常に近い形で実験すると新知見が得られるかもしれません。

扁桃体の慣れが遅いことが実証できたからといって、新奇なものに対する扁桃体の反応が過大だという主張が全否定されるわけでもありません。両方の特徴を行動抑制が有している可能性もあります。
追記(2011/7/6):ただ、この論文中には新奇条件における行動抑制の影響は記載されていませんでした。新奇条件に関する図を見る限りでは、抑制気質がある人と行動抑制とは真逆の人で扁桃体の反応が顕著に異なるという印象は受けません。むしろ、行動抑制とは対照的な人の方が左扁桃体が賦活しています(新奇条件)。ただ、統計的な検定結果が記述されていないのでよくわかりません。(追記終)

それにしても行動抑制の人は扁桃体の閾値が低いという学説はまだまだ確証されていないようです。にもかかわらず、緘黙児には行動抑制が関わっており、扁桃体の閾値が低いというような説も広まっています。行動抑制と扁桃体の関係についても未解明な点が多いのに、緘黙との関わりなんて言わずもがなではないでしょうか。もちろん、将来の科学的検証なんて待ってられない方もいらっしゃるでしょうし、独り歩きがあるからこそ、それを検証しようとする学者もでてくるかもしれません。親のしつけが悪いとか虐待説もそのように否定されてきたのでしょうか。だとしたら、立証されていない学説はあくまでそのような考え方があるという留意にとどめるべきでしょう。

ちなみに、掲載雑誌はSocial Cognitive and Affective Neuroscience(SCAN)で、Oxford Journalsが版元です。研究チームは脳機能の研究としては珍しく、研究者全員がヴァンダービルト大学という同じ大学に所属しています。ヴァンダービルト大学はアメリカ合衆国テネシー州にある私立大学です。

スポンサードリンク

Comment

スポンサードリンク

Trackback
Comment form
カテゴリ
ランキング
Twitter
スマートフォンサイト
Amazon書籍
場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

リンクについて
このサイトはリンクフリーです。リンクの取り外しはご自由になさって下さい。個別ページのSNSでの共有やブログ、サイトへのリンクも自由です。
プライバシーポリシー
当ブログはGoogle Adsense広告を掲載しています。Google Adsenseでは広告の適切な配信のためにcookie(クッキー)を使用しています。ユーザーはcookieを無効にすることができます。

なお、Google Adsenseで上げた収益は将来のホームレス生活を見越し、すべて貯金にまわしています。
免責事項
ブログ記事の内容には万全の注意を払っていますが、管理人はその内容の正確さについて責任を負うものではありません。

PAGE TOP