休み時間が楽しい緘黙児、友だちといて楽しい緘黙児 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

休み時間が楽しい場面緘黙児(選択性緘黙児)、友だちといて楽しい場面緘黙児がけっこういるという報告に驚いたので、ここに書き記しておきます。

内田育子(2012). 場面緘黙の子どもたちについて : 子どもたちの思いによりそった支援 島根大学大学院教育学研究科「現職短期1年コース」課題研究成果論集 3, 41-50.
英語表記:Uchida, I. (2012). Students with selective mutism : supportive approaches snuggling up to their minds. Shimanedaigaku daigakuin kyoikugakukenkyuka"gensyokutankiitinenkousu"kadaikenkyuseikaronsyu, 3, 41-50.

○調査概要

「島根県通級指導教室の実態調査」の一環として、「通級指導教室担当者への実態調査」が3回行われています。本ブログ記事ではその内、2回をとりあげ、次いで緘黙児童生徒本人への調査にふれます。

●1回目の調査

県内担当者会に参加した48人(48校)の通級指導教室担当者がアンケートに協力。その結果、4月時点で「通級指導教室に通う児童生徒の中で,場面緘黙の児童生徒は,2.8%(924 人中26 人)」でした。女子19人、男子7人。

●2回目の調査

「場面緘黙児童生徒がいる教室の指導者」がアンケートに回答。「14教室に通う21人の児童生徒について回答を得」た。質問内容は「各児童生徒の具体的な背景と指導の実際について」。この第2回目の調査の結果は以下の通りです。

・場面緘黙以外の障がいを21人中7人が併存。「広汎性発達障害4人、LD(読字障害)2人、病弱(弱視、斜視)1人」。したがって、場面緘黙と広汎性発達障害の併存児童生徒率は19%となります。同様にLDの併存児童生徒率は10%、病弱(弱視、斜視)の併存児童生徒率は5%。

・「本児に一番願うこと(通級指導の目的)」は、小学校低学年・中学年で「安心してリラックスできる場」の提供が多くなりました。高学年になると、「安心してリラックスできる場」の提供以外に「話をすること」、「自己表現や自己理解について」が増加。中高校生になると、通級指導教室を「いざとなった時にいつでも頼れる場所(例:駆け込み寺、保険のようなもの)」とする教員が増加。

・「支援・指導の内容」としては「安心して過ごせる場の提供」、「担当者と心を開いてやり取りをする」、「本児のやりたいことを中心に、いろいろな体験活動」が、いずれの学年においても比較的多くなっていました(私の印象)。

・「指導上気になること等自由記述」では、「本当に今の関わりでいいのか」「保護者支援の難しさ」など、場面緘黙児への対応に苦悩していることが伺われました。

●緘黙児童生徒本人にアンケート調査

9月には「緘黙児童生徒本人への実態調査」を実施しています。質問紙に回答した緘黙児童生徒は21人中18人。

・「一緒に過ごすと楽しいと感じる相手」はいずれの学年においても「家の人」が多くなりました(11人)。「家の人の中でも安心して話せる相手がそれぞれに異なってい」たとのことです。中には家の人の中で安心して話せるのがペットだけ、いとこだけという緘黙中学生もいました。「一緒に過ごすと楽しいと感じる相手」が「友だち」である緘黙児童生徒も10人と、「家の人」よりも1人少ないだけでした。「友だち」を選択した児童生徒のうち、「友だち」だけを選択したのは7人でした。

・「学校で楽しいと感じる時間」は「休み時間」が最も多く、9人でした。その次に多かったのが「勉強時間」の7人、「給食の時間」の2人、「その他」の1人でした。

・「学校で話をする順番がまわってきた時に、どんな気持ちになりますか?」や「家だと話しやすいのはなぜですか?」という質問には「分からない」という回答が「予想以上に多かった」そうです。

・「通級指導の時間はあなたにとってどんな時間ですか?」という質問には「楽しい」が10人、「すごく楽しい」が8人と、18人全員が通級指導を楽しんでいたことが分かりました。その理由として「安心して楽しく過ごせるから」や「やりたいことができるから」が多かったそうです。

事例研究、研修会参加は省略します。

○コメント

1回目の通級指導教室担当者への実態調査で場面緘黙の児童生徒は2.8%(924人中26人)でした。しかし、1回目の調査は「4月時点」での結果です。場面緘黙症(選択性緘黙)の診断基準では場面緘黙症状の持続期間が1カ月以上ないといけないとされており、厳密なことをいうと、1年生の場合には場面緘黙症の診断基準を満たしているかどうかは微妙なところです(ただし、幼稚園・保育園・認定こども園・小学校・中学校から場面緘黙症状の継続がある場合は別)。もっとも、診断を下すのは通級指導教室担当者ではなく、精神科医ですから診断云々を言うのも変な話です。なお、過去には、通級指導教室に通う場面緘黙児は自校通級と他校通級を合わせて小学校で1.5%、中学校で2.?%ほどという研究(笹森・廣瀬, 2008)がありました。

参考記事⇒情緒障害特別支援学級に通う子どもの内、緘黙は約2%以下

なお、米国精神医学会が発行するDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)のp.189に「子供では分離不安症/分離不安障害や選択性緘黙の診断要件の1つである持続期間に柔軟性を持たせ、基準より短くすることもある」との記述がありますから、1カ月に拘る必要はないかもしれません。

通級指導の目的は小学校低学年・中学年で「安心してリラックスできる場」が多いのは直感的に分かりやすいです。高学年になると、それ以外に「話をすること」、「自己表現や自己理解について」が増加するというのは緘黙児の発達段階に合わせた対応といえるかもしれません。中高校生になると、通級指導教室を「駆け込み寺」や「保険のようなもの」として利用する目的が増えるのは、中学・高校ともなると、緘黙生徒の問題が深刻になりやすい/深刻化することを教員が懸念していることを反映しているのかもしれません。

私が驚いたのは、「一緒に過ごすと楽しいと感じる相手」で「友だち」を選択した緘黙児童生徒が10人と、「家の人」よりも1人少ないだけだったことです。そして、最も驚いた結果は「学校で楽しいと感じる時間」で「休み時間」が最も多く、9人だったことです。これは「勉強時間」が楽しいと回答した7人を上回ります。なぜこの結果に驚いたのかと言えば、場面緘黙時代の休み時間といえば、独りで耐え忍ぶものであったという体験談がインターネット上に散見されるからです。ところで、場面緘黙児の友人の数・関係の質には個人差があったとの報告(Diliberto & Kearney, 2014)があります。もしかしたら、友人関係が良好ならば、緘黙児でも休み時間が楽しくなる可能性がありますが、本研究では両者を関連付けたデータ解析がされていませんでした。

ただ、本研究は通級指導教室を利用している緘黙児童生徒が対象の調査なので、通級による指導を受けていない子については不明です。

本課題研究(私の理解に間違いがなければ、修士論文に相当)では「Cさんとの関わり」という項目で、場面緘黙症の中学生が卒業しても、その子との関係を維持する通級指導教員が存在することが指摘されています。これは、小学校の通級で中学生を指導することもあるという先行研究(笹森・廣瀬, 2008)と似ています。

*私の理解に間違いがなければ、本稿が掲載された島根大学課題研究成果論集の「現職短期1年コース」は、現職の学校教員が教職大学院に匹敵する研修機会を受けるために設けられた課程ですから、本課題研究の執筆者である内田育子氏も少なくとも現職短期1年コース在籍時は現職教員だったと推察されます(どうりで課題研究で教員にしかできないような緘黙児への指導事例が紹介されているわけだ)。また、「おわりに」の謝辞から察するに主な指導教官は島根大学の稲垣卓司教授(教育学部心理・発達臨床講座)だったと考えられます。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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