自宅の近所に海や森林等が多い人は不安障害でないことが多い | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、論文アブストラクト(抄録)、研究方法、研究結果だけを読んだ不安(障害)・恐怖に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ不安(障害)・恐怖なのかというと、場面緘黙(選択性緘黙)児は不安が高いか、もしくは不安障害(不安症)を併存していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5では場面緘黙症が不安障害になりました。

今回は自宅周辺に緑地が多い人は不安障害であることが少ないという研究です。回帰分析では自宅近辺での湖沼や海が占める割合が高い人も不安障害であることが少ないという結果になっています。

なお、不安(障害)・恐怖以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事1⇒消去法は合理的思考を促進する
最近の記事2⇒痛みの後は甘い食物を食べる量が増加する

de Vries, S., ten Have, M., van Dorsselaer, S., van Wezep, M., Hermans, T., & de Graaf, R. (2016). Local availability of green and blue space and prevalence of common mental disorders in the Netherlands. British Journal of Psychiatry Open, 2(6), 366-372. DOI: 10.1192/bjpo.bp.115.002469.

オランダのヴァーヘニンゲン大学研究センター環境研究所(Alterra)とユトレヒト州の蘭国精神衛生嗜癖研究所(トリンボス研究所)の研究者による論文です。

〇目的

自宅近辺の自然環境とうつ病や不安障害の有無、自己報告の精神的健康/一般的健康の間の関係を調べることを目的としました。

〇方法

サンプルとした人達の健康状態や社会経済的特徴はオランダ精神保健調査・発生率調査-2(Netherlands Mental Health Survey and Incidence Study-2,NEMESIS-2)のベースラインウエイブ(wave)のデータを活用。NEMESIS-2とは、18~64歳のオランダ語話者を対象とした前向き研究のことです。NEMESIS-2のベースラインウエイブは2007年11月~2009年7月に行われ、6,646人が参加しました(反応率は65.1%)。

指標は精神障害の有無と自己申告の健康状態。精神障害の有無は統合国際診断面接3.0版(Composite International Diagnostic Interview version 3.0, CIDI 3.0)で判断(DSM-IV基準)。CIDI 3.0とは、世界保健機関(World Health Organization,WHO)が疫学調査や比較文化研究等のために開発した、精神障害の評価のための構造化面接法のことです。 本研究では、過去12か月間の間に気分障害(気分症)や不安障害、物質使用障害があったかどうかを調べました。ここでの気分障害とは、大うつ病、気分変調症(dysthymia)、双極性障害のことです。不安障害とは、パニック障害、パニック障害なしの広場恐怖症、社交恐怖症(社交不安症,社交不安障害)、全般性不安障害のことです。物質使用障害とは、アルコール乱用、アルコール依存症、薬物乱用、薬物依存症のことです。

過去4週間の自己申告の健康状態では、精神的健康、一般的健康の2種類を評定。精神的健康は保健調査短縮型(Short Form Health Survey,SF-36)の下位尺度である心の健康質問票-5(Mental Health Inventory-5,MHI-5)で評価。一般的健康はSF-36の一般的健康に関する下位尺度を用いて評価。

自宅周辺の緑環境、水環境を以下のように定義。
・緑地可用性(Green Space Availability,GSA):調査協力者の自宅の郵便番号6桁の地域の重心地から半径1 km以内の空間における緑地の割合。ここでの緑地とは、温室を除く農地、森林、自然地域、都会の自然のこと。緑地かどうかの判断では、オランダ土地被覆第6版(Landelijk Grondgebruiksbestand Nederland versie 6,LGN6)という2007~2008年の間の土地利用データベースを活用。

・水地可用性(Blue Space Availability,BSA):調査協力者の自宅の郵便番号6桁の地域の重心地から半径1 km以内の空間における水地の割合。ここでの水地とは、淡水地と塩水地/海水地のこと。

近所の社会経済的状況の影響は平均住宅用不動産価値で調査。住宅用不動産価値はオランダ中央統計局のデータを借用。

自宅周辺の都会レベルは、オランダ中央統計局の2008年のデータを活用し、(調査協力者の自宅の郵便番号6桁の地域の重心地から?)1 km以内の住居密度で決定。平均住居密度が1500/km2以下か否かで都会レベルの高低を定義。

〇結果

サンプルは6,646人でしたが、郵便番号のマッチングにミスがあった等が理由で、データ解析に使えなかったのが25人でした。平均住宅用不動産価値をデータ解析に用いた場合には、さらに81人のデータが失われ、6,540人になりました。

6,621人中、女性が3,659人(55%)、35歳未満は1,600人(24%)、35~54歳は3,278人(50%)、パートナー(同棲相手や配偶者等)がいなかったのは2,130(32%)、家庭に子供がいなかったのは3,717人(56%)、初等教育/基礎職業訓練/前期中等教育のみが2,148人(32%)、後期中等教育が2,135人(32%)、 有給職未就労が1,679人(25%)、世帯収入が低かったのが1,536人(23%)、世帯収入が中度だったのが2,724人(41%)、世帯収入が不明だったのが739人(11%)、平均住宅用不動産価値は€240,000。気分障害者は408人(6.2%)、不安障害者は404人(6.1%)、物質使用障害者は297人(4.5%)、気分障害、不安障害、物質使用障害の内少なくとも1つ以上の精神障害があった人は1,128人(17.0%)。平均緑地可用性(GSA)は51.7%(S. D. = 19.4)、平均水地可用性(BSA)は5.9%(S. D. = 7.3)、自宅周辺の都会レベルが高かったのは2,792人(42%)。

GSAと都会レベルは負の相関で、相関係数はr = −0.68。GSAとBSAも負の相関で、相関係数はr = −0.33。都会レベルとBSAは正の相関で、相関係数はr = 0.13。住宅用不動産価値はGSAと正の相関で、相関係数はr = 0.28。住宅用不動産価値とBSAの相関は有意でありませんでした。

相関分析:GSAが高いと、精神障害が1つもない人が多くなりました(r = −0.04)。GSAが高い地域に住んでいる人はメンタルヘルスが良い可能性が高まりました(r = 0.09)。一般的健康や物質使用障害、不安障害でも同様で、GSAが高い地域に住んでいる人は健康的でした。しかし、気分障害とGSAの関係は有意傾向にとどまりました。

相関分析:BSAが高い地域に住んでいる人は気分障害の人が少なくなりました(r = −0.04)。 同様に、BSAが高いと、精神障害が1つもない人が多く、精神的健康も一般的健康も高くなりました。しかし、BSAは物質使用障害や不安障害とは有意な相関関係を示しませんでした。

相関分析:自宅周辺の都会レベルが高いほど、メンタルヘルスが悪くなりました。また、都会レベルが高いと気分障害や不安障害、物質使用障害の人が多く、一般的健康も低くなりました。

以下の回帰分析で交絡変数として統制したのは、性別、年齢、パートナーの有無、家庭内での子供の有無、教育水準(教育レベル/学歴)、有給職への就労状況、世帯収入、自宅周辺の都会レベル。

回帰分析:都会レベルを考慮しないと、GSAが高いほど、不安障害が少なくなりましたが、気分障害は予測しませんでした。一方、BSAでは自宅の近隣で湖沼や海の占める割合が大きいほど、不安障害と気分障害が少なくなりました。GSAもBSAも高いほど、精神障害が1つもない人が多くなり、精神的健康や一般的健康が良くなりましたが、物質使用障害とは関連しませんでした。効果はGSAよりもBSAの方が高く、これは気分障害、不安障害、精神的健康、一般的健康のいずれにおいても同様で、緑より水の方が健康的でした。

回帰分析:GSAやBSAを考慮しないと、都会レベルは精神的健康のみ予測しました。GSAとBSAに加えて、都会レベルを予測変数として投入すると、GSAが精神障害が1つもない人を予測する力が有意でなくなりました。一方、BSAによる予測力は低下しませんでした。これは、GSAと都会レベルの間の相関係数はr = −0.68で、BSAと都会レベルの間の相関係数はr = 0.13と、BSAの方が都会レベルとの関係が弱いことが一因かもしれません。

精神的健康も一般的健康も、GSAやBSAを使ったモデルに新たな変数となる都会レベルを投入しても、モデルの予測精度は向上しませんでした。しかし、都会レベルを使ったモデルにGSAとBSAを投入すると、モデルの精度が向上しました(→都会レベルよりもGSAやBSAの方が重要)。都会レベルとGSAやBSAの交互作用は有意でありませんでした(→GSAやBSAが健康を予測する力は都会レベルの高低によって左右されない)。

自宅近辺の平均住宅用不動産価値が高いと気分障害が少なく(オッズ比 = 0.998; 95%信頼区間: 0.997–1.000)、物質使用障害が多い(オッズ比 = 1.002; 95%信頼区間: 1.000–1.003)傾向にありました。しかし、平均住宅用不動産価値を共変量として統制しても、GSAやBSAによって気分障害や不安障害を予測できたことに変わりありませんし、予測力にも大した違いは生じませんでした。

自宅近辺の平均住宅用不動産価値が高いと精神的健康が良好(B= 0.008; 95%信頼区間: 0.004–0.012)で、一般的健康も高く(B = 0.010; 95%信頼区間: 0.005–0.015)なりました。平均住宅用不動産価値を共変量として統制しても、GSAやBSAによって精神的健康や一般的健康を予測できましたが、予測力は低下しました。この低下はBSAよりもGSAで顕著でした。

教育水準とGSAやBSAの交互作用、すなわち学歴によってGSAやBSAが健康を予測する力が異なるかどうかを検討しました。その結果、被説明変数を精神障害とすると、交互作用が有意でありませんでした。しかし、被説明変数を精神的健康とすると、BSAで交互作用が検出されました(GSAでは有意でない)。具体的には、大学卒などの高学歴の人よりも学歴が初等教育レベルの人の方が、BSAが高いと精神的健康が良好でした。被説明変数を一般的健康とすると、教育水準はGSAとBSAの両方と交互作用しました。すなわち、高学歴の人よりも学歴が初等教育レベルの人や後期中等教育レベルの人の方が、GSAが高いと一般的健康が良くなりました。また、高学歴の人よりも学歴が初等教育レベルの人の方が、BSAが高いと一般的健康が良くなりました。

なお、ここでいう精神障害が1つもないとは、気分障害、不安障害、物質使用障害ではないという意味であり、それ以外の精神障害がないことを保証するものではありません。

〇コメント

以上をまとめると、

・自宅の郵便番号の地域の重心地から半径1 km以内に、農地、森林などの緑地が占める割合(GSA)が多いと不安障害の人が少なく、精神的健康や一般的健康が良好(自宅近辺に緑地が多いと気分障害・不安障害・物質使用障害のいずれもない人も多くなったが、BSAと都会レベルを考慮すると有意にならず)

・自宅の郵便番号の地域の重心地から半径1 km以内に、湖沼や海が占める割合(BSA)が多いと気分障害の人が少なく、気分障害・不安障害・物質使用障害のいずれもない人が多く、精神的健康や一般的健康が高い

というのは相関分析と回帰分析に共通した結果でした。また、回帰分析では、

・GSAよりもBSAの方が気分障害、不安障害、精神的健康、一般的健康を予測する

・GSAとBSAが精神的健康や一般的健康を予測するのは都会レベルとは独立したもの

・GSAやBSAによる気分障害や不安障害の予測は平均住宅用不動産価値では説明できない

・GSAやBSAによって精神的健康や一般的健康を予測できるのは、部分的には平均住宅用不動産価値によって説明され、BSAよりもGSAで顕著

・GSAやBSAによる精神障害の予測力は学歴によって違うとはいえない

・学歴が低い人の方が自宅周辺の自然に水があると精神的健康や一般的健康が良好

・学歴が低い人の方が自宅周辺の自然に緑があると一般的健康が良好


という結果が得られました。本研究は因果関係を立証したものではありません。しかし、もし因果関係があったとしたら、重要な要因になります。精神障害への対応というと、特に臨床現場ではそれぞれの患者と向き合うことが重要だと思います。しかし、実は個人レベルでの対処法だけでなく、自然環境を整えるなど人口全体を見据えた対策が可能だということを本研究は(もし因果関係があったならば)示唆します。

引っ越し/転校で場面緘黙症を治そうと考える人を見かけることがありますが、引っ越し先の自然環境も考慮すべきかもしれません。ただ、子供の頃の引っ越しには様々なリスクがつきものです(この話はまた別の機会に。緘黙症の「引っ越し/転校療法」の功罪の話は以前から温めているのですが、なかなか時間がとれなくて記事にできないでいます)。

〇仮に因果関係ならば、メカニズムは?

仮に因果関係があったとしても、本研究だけではメカニズムは不明です。単に漸進的筋弛緩法をするよりも、マインドフルネス瞑想や慈悲の瞑想(Loving-Kindness Meditation,LKM)をする方が社会的つながり感覚や自然とのつながり感覚が高まるという研究があります(Aspy & Proeve, in press)。マインドフルネス瞑想なんかは不安障害に有効だという報告(Boettcher et al., 2014)がされています。そういえば、日本の小学生の場面緘黙傾向を抑えるにはディタッチト・マインドフルネス(自らの感情や思考から距離をおいて観察する心的構え(距離を置いた心的構え)や能動的注意制御能力を高める方法が有効である可能性(二宮他, 2015)も指摘されてもいます。なので、自然とのつながり感覚などが心理的要因になるのかもしれません。ただ、臨床試験で自然とのつながり感覚が精神障害の改善に重要だという報告は、少なくとも私は知りません and/or 記憶にありません。

Aspy & Proeve(in press)の実験手続きでの慈悲の瞑想とは、子供の頃の幸せだった記憶を思い出し、私が幸せであるように(may I be happy)、私が安全で安心できるように(may I be safe and secure)、私が健康で強くあるように(may I be healthy and strong)、私に充実感がありますように(may I be fulfilled)とリピートし、次いで親友や尊敬する人、知人、気難しい人(difficult person)、あらゆる生き物に対しても同様のことを行うものでした。なお、マインドフルネス瞑想では呼吸や皮膚感覚などの身体感覚への気づきを高めていました。

関連記事⇒マインドフルネスの遺伝率は32%(16歳)

〇引用文献(アブストラクトと実験方法の一部だけ読みました)
Aspy, D. J., & Proeve, M. (in press). Mindfulness and Loving-Kindness Meditation: Effects on Connectedness to Humanity and to the Natural World. Psychological Reports. DOI: 10.1177/0033294116685867.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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