「問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。
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2017.01.22
興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(要旨)だけを読んだ不安(障害)の治療法に関する最新の論文を取り上げます。
なぜ不安(障害)なのかというと、場面緘黙症児は不安が高いか、もしくは不安障害(不安症)を併存していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会が発行するDSM-5では場面緘黙症(選択性緘黙症,選択的緘黙症,選択緘黙症)が不安障害になりました。
今回は、ワーキングメモリ(作動記憶/作業記憶)の訓練効果が大きい人は特性不安の低下も大きいという研究です。
なお、不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。
最近の記事⇒外国経験は人を非道徳的にさせる
最近の記事⇒体外離脱で死の恐怖を低下させることが可能
↑体外離脱は実験で人為的に引き起こすことができることは周知の事実ですが、今回は体外離脱で死の恐怖が低下するとの報告です。
Sari, B. A., Koster, E. H. W., Pourtois, G., & Derakshan, N. (2016). Training working memory to improve attentional control in anxiety: A proof-of-principle study using behavioral and electrophysiological measures. Biological Psychology, 121, 203–212. doi:10.1016/j.biopsycho.2015.09.008.
ベルギーのゲント大学実験臨床心理学・健康心理学研究科、イギリスのロンドン大学バークベック校心理学研究科感情認知制御研究室(ラボ)の研究者による論文です。
〇背景と目的(序論)
特性不安は注意制御や処理効率性の障害と関連しています。先行研究では、適応的二重n-back課題によるワーキングメモリの訓練で亜臨床うつ群の注意制御が改善し、ワーキングメモリ課題で転移効果が行動レベルでも神経レベルでも認められました。そこで、特性不安が高い人が適応的二重n-back課題訓練を行うと、注意制御にどのような影響があるのか調べることを目的としました。
〇方法
高特性不安群が、適応的二重n-back課題で毎日3週間、ワーキングメモリ訓練を施行。注意制御は訓練前後に、ストレス誘導を含むフランカー課題と情動アンチサッケード課題(怒り顔や無表情顔を使用)で計測。安静時の脳波をEEG(脳波計)で計測し、シータ波/ベータ波比率を特性注意制御の神経マーカーとして使用。
なお、基本的なフランカー課題の手続きについては、別の記事「基底外側扁桃体損傷者は脅威の身体ジェスチャーを無視するのが苦手」を参考にしてください。情動アンチサッケード課題の手続きは「7.5%濃度の二酸化炭素を吸い不安になると、ネガティブ写真に敏感になる」という記事が参考になります。n-back課題の手続きについては「都会生活者はストレスで扁桃体が興奮しやすい」という記事を参考にしてください。今回は二重n-back課題ということですから、2つのn-back課題を同時進行で行うわけです。適応的ということは、成績が向上するにつれて難易度をあげていくということだろうと推測します(詳しくは論文を見てください)。
〇結果
適応的ワーキングメモリの訓練で注意制御力が向上しました。フランカー課題や安静時EEGで転移効果が認められましたが、情動アンチサッケード課題への影響は検出されませんでした。ワーキングメモリの訓練効果が大きかった人で、訓練前の特性不安と比較した訓練後の特性不安が低下していました。
〇コメント
メタ解析研究(Moran, 2016)においても、不安はワーキングメモリ能力の低さと関連することが示唆されています(効果量Hedges'g =-.334)。適応的二重n-back課題でワーキングメモリの障害だけでなく、特性不安も改善するとしたら一石二鳥ですし、注意制御力も改善すれば一石三鳥になります。また、社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)患者の中には注意バイアス訓練をやっているところを他人に見られて、社交不安障害の治療をやっていることがばれるのを恐れる人の存在が指摘されており(Boettcher et al., 2014)、ワーキングメモリの訓練ならば頭の体操という言い訳が通用します。つまり、ワーキングメモリの訓練ならば、精神障害の治療をしているのを他者にばれる恐れが低いわけです。
不安症状の1つとされる場面緘黙傾向を抑えるには、能動的注意制御能力を高める方法が有効である可能性が日本の小学生で指摘されています(二宮他, 2015)。今回の論文でいうところの注意制御と二宮他(2015)でいうところの能動的注意制御がどの程度類似しているのか判然としませんが、場面緘黙症状への対策としてワーキングメモリの訓練(による転移効果)も今後の検討課題として考慮する価値はあります。
なお、ワーキングメモリの定義には少なくとも9種類あり、それらを組み合わせると、さらにもう1つ定義が出来上がるとされます(Cowan, in press)。Cowan(in press)によれば、ワーキングメモリの定義が複数存在するのは、研究方法や理論的志向性の違いからきているそうです。今回の論文でのワーキングメモリはどのような位置づけになるのか気になるところです(←おい、自分で調べへんのかい!というツッコミはなしでお願いします。はっきりいって自分にはそこまでする余裕・余力がないです)。
関連記事⇒作業記憶の訓練後の不安の低下は認知行動療法と遜色ない
〇引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Cowan, N. (in press). The many faces of working memory and short-term storage. Psychonomic Bulletin & Review, doi:10.3758/s13423-016-1191-6.
なぜ不安(障害)なのかというと、場面緘黙症児は不安が高いか、もしくは不安障害(不安症)を併存していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会が発行するDSM-5では場面緘黙症(選択性緘黙症,選択的緘黙症,選択緘黙症)が不安障害になりました。
今回は、ワーキングメモリ(作動記憶/作業記憶)の訓練効果が大きい人は特性不安の低下も大きいという研究です。
なお、不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。
最近の記事⇒外国経験は人を非道徳的にさせる
最近の記事⇒体外離脱で死の恐怖を低下させることが可能
↑体外離脱は実験で人為的に引き起こすことができることは周知の事実ですが、今回は体外離脱で死の恐怖が低下するとの報告です。
Sari, B. A., Koster, E. H. W., Pourtois, G., & Derakshan, N. (2016). Training working memory to improve attentional control in anxiety: A proof-of-principle study using behavioral and electrophysiological measures. Biological Psychology, 121, 203–212. doi:10.1016/j.biopsycho.2015.09.008.
ベルギーのゲント大学実験臨床心理学・健康心理学研究科、イギリスのロンドン大学バークベック校心理学研究科感情認知制御研究室(ラボ)の研究者による論文です。
〇背景と目的(序論)
特性不安は注意制御や処理効率性の障害と関連しています。先行研究では、適応的二重n-back課題によるワーキングメモリの訓練で亜臨床うつ群の注意制御が改善し、ワーキングメモリ課題で転移効果が行動レベルでも神経レベルでも認められました。そこで、特性不安が高い人が適応的二重n-back課題訓練を行うと、注意制御にどのような影響があるのか調べることを目的としました。
〇方法
高特性不安群が、適応的二重n-back課題で毎日3週間、ワーキングメモリ訓練を施行。注意制御は訓練前後に、ストレス誘導を含むフランカー課題と情動アンチサッケード課題(怒り顔や無表情顔を使用)で計測。安静時の脳波をEEG(脳波計)で計測し、シータ波/ベータ波比率を特性注意制御の神経マーカーとして使用。
なお、基本的なフランカー課題の手続きについては、別の記事「基底外側扁桃体損傷者は脅威の身体ジェスチャーを無視するのが苦手」を参考にしてください。情動アンチサッケード課題の手続きは「7.5%濃度の二酸化炭素を吸い不安になると、ネガティブ写真に敏感になる」という記事が参考になります。n-back課題の手続きについては「都会生活者はストレスで扁桃体が興奮しやすい」という記事を参考にしてください。今回は二重n-back課題ということですから、2つのn-back課題を同時進行で行うわけです。適応的ということは、成績が向上するにつれて難易度をあげていくということだろうと推測します(詳しくは論文を見てください)。
〇結果
適応的ワーキングメモリの訓練で注意制御力が向上しました。フランカー課題や安静時EEGで転移効果が認められましたが、情動アンチサッケード課題への影響は検出されませんでした。ワーキングメモリの訓練効果が大きかった人で、訓練前の特性不安と比較した訓練後の特性不安が低下していました。
〇コメント
メタ解析研究(Moran, 2016)においても、不安はワーキングメモリ能力の低さと関連することが示唆されています(効果量Hedges'g =-.334)。適応的二重n-back課題でワーキングメモリの障害だけでなく、特性不安も改善するとしたら一石二鳥ですし、注意制御力も改善すれば一石三鳥になります。また、社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)患者の中には注意バイアス訓練をやっているところを他人に見られて、社交不安障害の治療をやっていることがばれるのを恐れる人の存在が指摘されており(Boettcher et al., 2014)、ワーキングメモリの訓練ならば頭の体操という言い訳が通用します。つまり、ワーキングメモリの訓練ならば、精神障害の治療をしているのを他者にばれる恐れが低いわけです。
不安症状の1つとされる場面緘黙傾向を抑えるには、能動的注意制御能力を高める方法が有効である可能性が日本の小学生で指摘されています(二宮他, 2015)。今回の論文でいうところの注意制御と二宮他(2015)でいうところの能動的注意制御がどの程度類似しているのか判然としませんが、場面緘黙症状への対策としてワーキングメモリの訓練(による転移効果)も今後の検討課題として考慮する価値はあります。
なお、ワーキングメモリの定義には少なくとも9種類あり、それらを組み合わせると、さらにもう1つ定義が出来上がるとされます(Cowan, in press)。Cowan(in press)によれば、ワーキングメモリの定義が複数存在するのは、研究方法や理論的志向性の違いからきているそうです。今回の論文でのワーキングメモリはどのような位置づけになるのか気になるところです(←おい、自分で調べへんのかい!というツッコミはなしでお願いします。はっきりいって自分にはそこまでする余裕・余力がないです)。
関連記事⇒作業記憶の訓練後の不安の低下は認知行動療法と遜色ない
〇引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Cowan, N. (in press). The many faces of working memory and short-term storage. Psychonomic Bulletin & Review, doi:10.3758/s13423-016-1191-6.
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