人は自分が思うほど喋っていない | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

人は自分が思うほど喋っていないという研究があります。この研究は自己報告のお喋り時間がどれだけ正確かを検討したもので、場面緘黙症(選択性緘黙症)の研究や治療、支援にとっても意義深い内容なので、とりあげることにします。

なお、それ以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事1⇒援助希求者は人助けにかかる労力を過小評価している
最近の記事2⇒マインドワンダリングと将来の身体活動量の関係は感情状態によって異なる
↑記事1はのび太とドラえもんの関係にたとえられます。援助希求者がのび太、援助者(支援者)がドラえもんというわけです。記事2のマインドワンダリングとは、「心ここにあらず」の状態のことで、現在すべき課題とは別のことを考えている状態という意味です。

Mehta, D. D., Cheyne, II, H. A., Wehner, A., Heaton, J. T., & Hillman, R. E. (2016). Accuracy of Self-Reported Estimates of Daily Voice Use in Adults With Normal and Disordered Voices. American Journal of Speech-Language Pathology, 25(4), 634-641. doi:10.1044/2016_AJSLP-15-0105.

ボストンのマサチューセッツ総合病院喉頭手術発声リハビリテーションセンター兼同病院医療従事者研究所(Institute of Health Professions)、ニューヨーク州イサカ市のコーネル大学鳥類学ラボ生体音響学研究プログラムの研究者による論文です。

〇背景と目的

発声障害において声の使用が果たす役割を理解する上で、日頃の発声行動を正確に推定することは重要です。しかし、臨床家は日頃の発声行動の評価をする際に、患者の自己報告に頼っているのが実情です。そこで、本研究では、人が日頃の声の使用量をどれだけ正確に推定できるかを調べることを目的としました。対象者は発声障害がない人とある人の両方で、発声持続時間(phonation time)を計測し、自己報告の結果と照らし合わせました。

〇方法

参加者は発声障害者6名と、彼らとマッチングした発声障害がない対照群者6名、普段そんなに喋らない人(low voice users)6名(計18名)。なお、「普段そんなに喋らない人」については、もしかしたら仕事で喋ることをそんなに要求されない職業に就いている人のことかもしれません。というのも、同じ研究グループが"Mehta, D, D., Listfield, R. W., Cheyne II, H. A., Heaton, J. T., Feng, S. W., Zañartu, M., & Hillman, R. E. (2012, September). Duration of ambulatory monitoring needed to accurately estimate voice use. Papers Presented at the Interspeech 13th Annual Conference of the International Speech Communication Association, Portland, OR. http://profesores.elo.utfsm.cl/~mzanartu/Documents/Mehta_et_al_InterSpeech_2012.pdf."という音声言語処理の国際会議、Interspeechでの研究発表ペーパーでそう記載しているからです。

発声持続時間の計測に、加速度計に基づく携帯型発声記録装置(Ambulatory Phonation Monitor,APM)を使用。APMは最低でも就業日の5日間装着。

1時間ごとに喋っていた時間を視覚アナログ尺度(Visual Analog Scale,VAS)を用いて自己評価。

〇結果

大多数の参加者は発声持続時間を過大推定しており、平均絶対誤差は113%でした。自己報告のお喋り時間とAPMに基づく発声持続時間の推定値の間の相関係数を個々人でそれぞれ調べると、有意でない関係からr = .91と強い相関関係に至るまで、個人差が大きいことが判明しました。

3群とも1時間ごとの発声評価は中程度の正確性で、いずれも過大評価する傾向にあったようです。

〇コメント

先に発声障害において、「臨床家は日頃の発声行動の評価をする際に、患者の自己報告に頼っているのが実情」と書きました。これは場面緘黙症の場合にも多かれ少なかれ当てはまります。もっとも、子供の場合には発話頻度の報告は親や学校の先生が実施する場合が多いですが。

本研究から言えることは、発声持続時間の自己評価がどれだけ正確なのかには個人差があり、全体として実際の発声時間よりも主観的な評価の方が発声が長いという評価を下す傾向にあるということです。こんな研究があると、場面緘黙傾向の自己評価の正確性について少し懐疑的な見方をした方が良さそうに思えてきます。

関連記事⇒選択性緘黙傾向を自己評価する日本語尺度の開発他

本研究成果が場面緘黙症にどれだけ当てはまるかは分かりませんが、発声行動の自己評価の正確性というのはベースラインのアセスメントだけでなく、緘黙症状の経過を考える上でも重要な意味があります。というのも、もし過大評価だとしたら、緘黙症状が軽快したと感じていたとしても、実際にはそんなに改善していない可能性が示唆されるからです。

ただ、あくまでもこれは発声時間の話で、お喋りの内容については不明です。たとえば、うつ症状が重篤なほど一人称単数代名詞を使うことが多く(r = 0.13, 95% CI = [0.10–0.16])、性別による違いは検出されなかったというメタ分析研究(Edwards & Holtzman, in press)があります。外向性が低い人ほど具体的な表現をする(Beukeboom et al., 2013)だとか、特異的言語障害児や健常発達児と比較して、 自閉症スペクトラム障害児は自閉症診断観察スケジュール(Autism Diagnostic Observation Schedule,ADOS)実施中に、間投詞(感嘆詞)のum(う~ん)を言うことが少ないという研究(Gorman et al., 2016)もあります。軽く喋れる(元)場面緘黙症の人あるいは場面緘黙症でも喋れる状況では、名詞や動詞だけ、あるいは少ない単語数で相手に伝えようとすることが多いかも?なんて勝手に想像してしまいますが、どうでしょうか。ただ、この問題には、場面緘黙児には自分で物語を語るのが苦手な子が多い(Klein et al., 2013)という表出言語能力の問題も関係してきそうです。

今回は携帯型発声記録装置(APM)を使っていました。その他には言語環境解析(Language ENvironment Analysis,LENA)という方法もあります。言語環境解析とは、ウェアラブルオーディオレコーダーで音声を記録し、解析ソフトウェアで自動的に人による声や環境音、沈黙に区分するシステムのことです。これらのテクノロジーを用いた場面緘黙症の研究が今後進展することを望みます。

〇引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Edwards, T'M., & Holtzman, N. S.(in press). A meta-analysis of correlations between depression and first person singular pronoun use. Journal of Research in Personality. doi:10.1016/j.jrp.2017.02.005.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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