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遺伝的に環境に影響されやすいと、個人認知行動療法が有効

2017-04-19 (Wed) 13:322
認知行動療法(CBT)
Differential Susceptibility Hypothesis(DSH)という仮説があります。Differential Susceptibility Hypothesisとは、良い環境にいると精神的健康が良くなりやすく、悪い環境にいると精神的健康が悪くなりやすいという遺伝因子が存在するという仮説です。たとえば、セロトニントランスポーター遺伝子多型(5HTTLPR)がSS型だと(平均的にみて)不安が高いはずなのに、5HTTLPRがSL/LL型の不安障害児よりも、SS型の不安障害児の方が認知行動療法の効果が持続しやすいという研究(Eley et al., 2012)は、5HTTLPRが認知行動療法という環境因子の影響を受けやすい遺伝子多型であるからだと説明されます。つまり、5HTTLPRなどのDifferential Susceptibility Hypothesisと関わる遺伝子多型は「良くも悪くも環境に影響されやすい遺伝子多型」というわけです。

先行研究では予め研究者が選択した少数の候補遺伝子で同仮説が検証されてきました。しかし、これだと、おそらくそれぞれに小さな効果のある膨大な数の遺伝子の影響を捉えきれません(これが追試の失敗の原因とも考えられます)。なので、今回の論文は研究者が候補遺伝子を予め選定したのではなく、ゲノムワイドアプローチであるという点が特長になります。

Keers, R., Coleman, J. R. I., Lester, K. J., Roberts, S., Breen, G., Thastum, M., Bögels, S., Schneider, S., Heiervang, E., Meiser-Stedman, R., Nauta, M., Creswell, C., Thirlwall, K., Rapee, R. M., Hudson, J. L., Lewis, C., Plomin, R., & Eley, T. C. (2016). A genome-wide test of the differential susceptibility hypothesis reveals a genetic predictor of differential response to psychological treatments for child anxiety disorders. Psychotherapy & Psychosomatics, 85(3), 146-158. doi:10.1159/000444023.

★概要

全体的な流れは、

研究1.情動問題における一卵性双生児間の差と関連する遺伝子型の探索

研究2.環境感受性多遺伝子得点(polygenic score)の算出及び養育と子供の情動問題の関係が当該得点によって違うかを検証

研究3.不安障害の児童青年の個人CBT、集団CBT、親主導型CBT短縮版に対する治療反応を環境感受性多遺伝子得点で予測できるかどうか検討(CBTとは認知行動療法のこと)

となっています。すべてゲノムワイド解析です。多遺伝子得点はそれぞれのアレルの効果量の大きさで重みづけしています。統制した共変量などは本文を参考にしてください。

研究1の結果を受けて、環境感受性多遺伝子得点を算出していましたが、そのロジックは次の通りです。一卵性双生児は遺伝子も共有環境も共通。したがって、一卵性双生児のペアの表現型の違いは非共有環境によると考えられます。ところで、一卵性双生児では良くも悪くも環境の影響を受けやすい遺伝子型の影響は、非共有環境の影響の違いを大きくさせると考えられます。というわけで、良くも悪くも環境の影響を受けやすい遺伝子型の影響は一卵性双生児の間の表現型の差という形で凝集されているはずです。

〇研究1

サンプルは双生児初期発達研究(Twins Early Development Study,TEDS)から。TEDSとは、1994~1996年の間にイングランド、ウェールズで生まれた双子を11,000組以上追跡した縦断研究のことです。研究1は1,026組の一卵性双生児のペアが参加(女性56.9%, 平均年齢11.28歳, SD = 0.02)。

情動問題は12歳の時に評定。尺度は子どもの強さと困難さアンケート(Strengths and Difficulties Questionnaire,SDQ)の情動症状下位尺度。子どもと親の両方が回答し、両者を合算。一卵性双生児のペアでの得点の差を算出。

DNA採取は頬の内側から綿棒で(以下同様)。

その結果、679,050個のSNPsの内、ゲノムワイドで一卵性双生児のペアでの情動問題の差と有意な関係が検出されたタイプはありませんでしたが、候補が発見されました。なお、SNPsとは、一塩基多型のことで、Single Nucleotide Polymorphismsの略です。SNPsは、集団内で1%以上の頻度で認められる一塩基の違いになります。代表的な候補SNPsは以下の通りでした。
                    
染色体番号SNP IDSNP位置アレル近傍遺伝子
1番染色体rs12131428162426451CUHMK1
22番染色体rs574887117603477ACECR6
19番染色体rs733948324462409GZNF254
5番染色体rs386426172358254AFCHO2
8番染色体rs10875469142333425TGPR20
5番染色体rs139241272362289GFCHO2

〇研究2

サンプルは双生児初期発達研究(TEDS)から。二卵性双生児のペアから血縁関係とは無関係にランダムに選択した1,406人が参加(女性52.1%,平均年齢11.20歳)。

情動問題は12歳の時に評定。尺度は子どもの強さと困難さアンケート(SDQ)の情動症状下位尺度。子どもと親の両方が回答し、両者を合算。

養育の評定も子どもが12歳の時に実施。尺度は、親への思い質問紙(Parental Feelings Questionnaire,PFQ)と養育方略質問紙(Parental Strategies Questionnaire,PSQ)。両方とも子供が回答者。PFQとは、子供の親との関係性を測る尺度のこと。PSQとは、子ども自身が不作法な行動をした時の親の行動反応を調査する尺度のこと。両者を合算して総養育得点を算出。ポジティブ養育得点、ネガティブ養育得点も個別に算出。

環境感受性多遺伝子得点の算出は研究1の結果に基づく。有意閾値の厳しさの程度に基づいて、厳しいものから緩いものまで全部で8つのSNPs得点を算出(研究3も同様)。

遺伝環境相関(ここでは、子供の環境感受性多遺伝子得点が養育に影響)を検証するため、環境感受性多遺伝子得点と養育との関係を調査。なお、遺伝環境相関とはなんぞや?という方は「緘黙を行動遺伝学で分析」という記事を参考にしてください。

環境感受性多遺伝子得点の算出に用いたSNPsはp値が厳しい順に、400個、3,161個、13,632個、25,384個、46,752個、66,205個、84,025個、100,111個。

研究の結果、どの有意水準でも、多遺伝子得点は情動問題と有意に関連しませんでした。一方、ネガティブ養育レベルが高いと情動症状が強くなりました。多遺伝子得点による養育と情動問題の関係の違いはSNPsが25,384個の時から生じました。SNPsが25,384個の時の有意水準の閾値はp<.1だったのですが、多遺伝子得点×養育の交互作用で情動問題の0.33%を説明しました。有意水準がp<.5、つまり、SNPsが100,111個の場合には、交互作用項が情動問題の0.53%を説明しました。

具体的には、多遺伝子得点が低い場合には、養育は情動問題とほとんど関連しませんでした。しかし、多遺伝子得点が高いと、ネガティブ養育が情動問題の高さと関連し、ポジティブ養育が情動問題の低さと関連しました。なお、子供が情動問題を評定し、親が養育を評定した場合も似た結果になったとのことです。

遺伝-環境相関は検出されませんでした(子供の環境感受性多遺伝子得点と養育の関係は有意でない)。

〇研究3

サンプルは1,519人の多施設研究から(ただし、データ解析対象者はもっと少ない)。全員が主診断が不安障害(DSM-IV基準)。年齢は5~18歳(5~13歳が94%)。

評定は治療開始前、治療終了直後、治療終了から3・6・12カ月後。各々の時点で、臨床家重篤度評定(Clinician Severity Rating,CSR)で主診断の不安障害の重篤度を評定。診断基準に該当し、CSRが4以上で診断。治療反応の定義はベースラインからのCSRの結果の変化。

n = 1,289で親が抑うつ不安ストレス尺度(Depression Anxiety Stress Scales,DASS)に回答。ここ1週間の抑うつ、不安、ストレス症状を評定。3つを合算し、親の精神病理の指標としました。

980人中、269人(27.5%)が個人CBT、503人(51.3%)が集団CBT、201人(21.2%)が親主導型CBT短縮版、7人(0.7%)が指導ありセルフヘルプCBT。指導ありセルフヘルプCBTはデータ解析から除外。残りの973名(女性54.9%,平均年齢9.8歳,SD = 2.2)で主診断が全般性不安障害なのが362人(37.2%)、社交不安障害が201人(20.7%)、特定恐怖症が106人(10.9%)、分離不安障害が223人(22.9%)。残りの81人(8.3%)は、パニック障害(広場恐怖症の有無を問わない)及びパニック障害なしの広場恐怖症が26人、強迫性障害が34人、PTSD(心的外傷後ストレス障害)が13人、選択性緘黙(場面緘黙症)が2人、特定不能の不安障害が6人。

全般性不安障害よりも社交不安障害や特定恐怖症の方が治療反応性が悪くなりました。性別、年齢、治療タイプによって治療反応性が有意に異なることはありませんでした。

研究1のSNPsの内、環境感受性多遺伝子得点の算出に用いたのはp値が厳しい順に、159個、1,295個、5,905個、10,988個、20,423個、29,46個、37,668個、45,371個。

研究の結果、全体的にどの有意水準を用いても多遺伝子得点は治療反応を予測しませんでした。しかし、多遺伝子得点が高いと個人CBTへの治療反応性が良く、親主導型CBT短縮版への反応が芳しくありませんでした。これは有意水準をp<.05に緩めた時、すなわち、SNPsが5,905個以上から生じ始めました。有意水準p<.05だと、多遺伝子得点が個人CBTの治療反応性の1.55%、親主導型CBT短縮版への治療反応性の4.80%を説明しました。

具体的には、多遺伝子得点が低い場合には、治療の種類によって治療反応性が変わることはほとんどありませんでした。しかし、多遺伝子得点が高い場合、個人CBTへの治療反応性が高く、集団CBTへの治療反応性が中程度で、親主導型CBT短縮版への反応が悪くなりました。治療終了後の寛解率は、多遺伝子得点が低いと、親主導型CBT短縮版で約65%、個人CBTで約60%、集団CBTで約55%でした。しかし、多遺伝子得点が高い場合、個人CBTの寛解率が70.9%と最大で、集団CBTが55.5%、親主導型CBT短縮版が41.6%となりました。

これらの結果はベースラインの不安障害の重篤度、不安障害の種類、年齢、性別を共変量として統制したものでした。先行研究によれば、外在化障害、内在化障害の併存や親の精神病理が治療反応性と関連するとされます。したがって、これらの交絡因子の影響を検討しました。その結果、多遺伝子得点は親の精神病理や子供の外在化障害の併存の有無とは関連しませんでした。しかし、多遺伝子得点が高いと内在化障害の併存率が低くなりました。ただ、内在化障害の併存を統制しても、主要な結果は変わらなかったことから、交絡因子として機能している可能性は低いか、もしくは交絡因子だとしても影響は弱いと考えられました。

実は各治療群はベースラインの重篤度、診断の種類、年齢、親の精神病理、併存する外在化障害、内在化障害が異なっていました。したがって、多遺伝子得点の高低による治療タイプごとの反応の違いは、これらの要因の影響を受けている可能性がありました。そこで、傾向スコアマッチングによる評価を行いました。傾向スコアマッチングとは、観察研究で介入群と非介入群、あるいは介入タイプごとの年齢や性別などの背景因子が異なる場合に、それらを調整することを目的として用いられる方法のことです。その結果、傾向スコアマッチングを用いた解析でも主な結果は変わりませんでした→治療タイプによる年齢等の割り当ての違いで、多遺伝子得点×治療タイプの交互作用が生じたのではない。

★コメント

以上をまとめると、

・遺伝的に良くも悪くも環境に影響されやすい子どもは、親のネガティブ養育が強いと情動問題が強く、ポジティブ養育が強いと情動問題が低い。しかし、遺伝的に環境に影響されにくい子どもでは養育は情動問題とほとんど関係しない。

・遺伝的に良くも悪くも環境に影響されやすい不安障害児は、個人CBTへの治療反応性が高く、集団CBTへの治療反応性が中程度で、親主導型CBT短縮版への反応が悪い。しかし、遺伝的に環境に影響されにくい不安障害児では、治療の種類によって治療反応性が変わることはほとんどない。


となります。

認知行動療法の有効性はある程度実証されているとはいえ、それはあくまでも「全体的に」という意味で、個人レベルで効果があることを保証するものではありません。今回の研究は、不安障害児の中でも遺伝的に良くも悪くも環境に影響されやすい子は、認知行動療法のタイプによる効き目の違いが大きいということを示唆する結果です。このような研究が進めば、ゲノム情報を用いた心理療法の個別化医療や精密医療が可能になってきます。

本論文によると、個人CBTは高強度治療で、親主導型CBT短縮版は低強度治療だそうです。したがって、遺伝的に良くも悪くも環境に影響されやすいタイプの不安障害児は、個人CBT、すなわち高強度治療に対する反応が良好ということになります。

もし本研究結果が確からしいならば、遺伝的に環境感受性が低い不安障害児はそんなに治療タイプを気にしなくて良くて、コストや個人の好みへのウエイトを大きくすることが可能です。しかし、遺伝的に環境感受性が高いならば、積極的に個人CBTを推奨した方が良いということになります(心理療法の効果をまずなりよりも優先するという条件つきですが)。

なお、養育の評定はあくまでも子供や親によるもので、行動観察での養育で同じ結果が得られるかどうか、不明だと論文に限界の1つとして書かれてありました。また、研究3で用いた傾向スコアマッチングは未計測の交絡因子を統制できず、因果関係を推定できないという欠点がある(Andrade, 2017)ので、RCT(ランダム化比較試験)が必要とのことです。

〇引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Andrade, C. (2017). Propensity Score Matching in Nonrandomized Studies: A Concept Simply Explained Using Antidepressant Treatment During Pregnancy as an Example. Journal of Clinical Psychiatry, 78(2):e162-e165. doi: 10.4088/JCP.17f11446.

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