ハイリーセンシティブドッグ(敏感すぎる犬)が存在する | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
HOME   »   Highly Sensitive Person(敏感すぎる人)の研究  »  ハイリーセンシティブドッグ(敏感すぎる犬)が存在する

問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回はHighly Sensitive Person(敏感すぎる人・繊細すぎる人)に関する研究をとりあげます。といっても、Highly Sensitive Personではなく、Highly Sensitive Dog(敏感すぎる犬・繊細すぎる犬)の話です。なお、私が読んだのは論文抄録、研究方法、結果、考察の一部で、全文は読んでいません。

なぜ、Highly Sensitive Person(、いやHighly Sensitive Dog)なのかというと、場面緘黙症(選択性緘黙)のブログや掲示板、ホームページを読んでいると、たまにHighly Sensitive Personに関する話がでてくるからです。

今回は犬でも敏感すぎるかどうかという個体差があり、ヒトの感覚処理感受性と類似の構造をしているという研究です。

なお、Highly Sensitive Person以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事1⇒恋人がいる大学生は授業を欠席することが多い
最近の記事2⇒1人より2人で決めた方が衝動的にならない
↑2つ目の研究は、最初に2人の間に意見の不一致がある場合でも衝動的にならなかったというのが興味深いです。

Braem, M., Asher, L., Furrer, S., Lechner, I., Würbel, H., & Melotti, L. (2017). Development of the “Highly Sensitive Dog” questionnaire to evaluate the personality dimension “Sensory Processing Sensitivity” in dogs. PLoS ONE, 12(5): e0177616. doi:10.1371/journal.pone.0177616.

スイスのベルン大学獣医学部?(Vetsuisse Faculty)獣医公衆衛生学研究所(動物福祉部門)、イギリスのニューカッスル大学(ニューキャッスル大学)神経科学研究所行動学進化学センターの研究者らによる論文です。

〇目的

「敏感すぎる人」がいるとされます。しかしこれまで人間以外にも敏感すぎる生命体がいるかどうかは調査されていませんでした。そこで、今回取り上げる論文では「敏感すぎる犬」に関する調査を行うことを目的としました。

なお、敏感すぎる人とは「感覚処理感受性が高い人」のことです。詳しくは「Highly Sensitive Personは感覚遮断で変性意識状態になりやすい」をご覧ください(リンク先で敏感すぎる人に関する基礎知識をおさらいすることができるようにしてあります)。簡単に言えば、敏感すぎる人は、感覚器官が鋭いのではなく、深く複雑な認知処理をする傾向が高い人のことです。

〇方法

まず、探索的予備研究で犬の感覚処理感受性を測る高感受性犬(highly Sensitive Dog,HSD)質問紙を作成。犬での感覚処理感受性性格次元は犬感覚処理感受性(canine Sensory Processing Sensitivity,cSPS)と命名しました。以下にHSD質問紙の作成手続きを詳述。

ハイリー・センシティブ・パーソン尺度(Highly Sensitive Person Scale,HSPS)をアーロン博士が開発した時と同様に定性的インタビューを実施。アーロン博士が敏感すぎる人を広告で募集した方法と同じやり方で、飼い犬が敏感だと思う飼い主15人を選抜し、面接調査。15匹の内14匹は研究者や調教師が犬の行動を直接観察して選抜。残る1匹は大学のウエブサイトから募集。

以下の質問紙で犬の性格を評定
・モナシュ犬性格質問紙(Monash Canine Personality Questionnaire,MCPQ)
・犬ビッグファイブ質問票(Canine Big Five Inventory,C-BFI)
・陽性・陰性活動性得点(Positive and Negative Activation Score,PANAS)
・犬用衝動性質問紙

飼い主は自身の感覚処理感受性をハイリー・センシティブ・パーソン尺度(HSPS)で評定。また、犬の性格を評定。1~7の7件法リッカート尺度。質問紙は感覚処理感受性が高いと思われる犬の飼い主16名と感覚処理感受性が高くないと思われる犬の飼い主10名に配布(ただし、HSPS回答者は、感覚処理感受性が高いと思われる犬の飼い主で14名、感覚処理感受性が高くないと思われる犬の飼い主で9名)。

面接調査の結果とHSPS、ハイリー・センシティブ・チャイルド(Highly Sensitive Child Scale(HSCS)、犬の性格質問紙に基づいて高感受性犬質問紙(HSD質問紙)を作成。

次に、国際オンライン調査を実施。3,647人のデータを解析(回答率は56%)。対象国はドイツ語圏の国(スイス、ドイツ、オーストリア)と英語圏の国(イギリス、アメリカ、カナダ)で81%を占めました。

使用質問は以下の通り(最初の3つは1~7の7件法リッカート尺度)。回答者は当該犬と最も親密な関係がある飼い主。
・HSD質問紙:予備調査で開発したもの。質問項目数は32個。クロンバックのα係数は0.90。
・恐がり質問7つ:陽性・陰性活動性得点(PANAS)での質問と全般的不安を測る質問。クロンバックのα係数は0.84。
・神経症傾向質問6つ:HSD質問紙の神経症傾向を測る質問など。クロンバックのα係数は0.78。
・HSPS:飼い主の感覚処理感受性を評価。クロンバックのα係数は0.93。

初回調査から6か月後に、再調査。協力依頼は最初の調査に参加した人の中でEメールアドレスが分かっている人、2,804人に配信。前回と同じ犬を前回と同じ人が評価するタイプ(評価者内信頼性)と前回と同じ犬を前回とは違う人が評価するタイプ(評価者間信頼性)の調査を実施。前者は447人が回答、後者は120人が回答。

〇結果

ハイリー・センシティブ・チャイルド(HSCS)やモナシュ犬性格質問紙(MCPQ)、犬ビッグファイブ質問票(C-BFI)、陽性・陰性活動性得点(PANAS)、陽性・陰性活動性得点(PANAS)、犬用衝動性質問紙の全てを合算し平均化したら、感覚処理感受性が高くないと思われる犬よりも感覚処理感受性が高いと思われる犬の方が平均得点が高くなりました。

犬の感覚処理感受性(様特性)の高低による差が大きい質問項目上位32個で高感受性犬質問紙(HSD質問紙)を作成しました(クロンバックのα係数は0.7-0.8)。32個の質問への回答の得点の平均値と飼い主の感覚処理感受性の間の相関係数は、感覚処理感受性が高いと思われる犬でr = .45、感覚処理感受性が高くないと思われる犬でr = .39でどちらも有意な関係ではありませんでした。

国際オンライン調査の結果は、国際畜犬連盟の基準等によると雑種犬が最多で、次がシェパード・ドッグとキャトル・ドッグ、 レトリーバーとフラッシング・ドッグとウォーター・ドッグ等でした。オスが50%(内、去勢犬が68%)、メスが50%(内、去勢犬が76%)。犬の平均年齢は5.8歳(SD = 3.6)、平均体重は21.3 kg(SD = 11.7)。65%の犬は現在の飼い主が初めての飼い主でしたが、26%の犬は現在とは別の人に飼育された経験がありました(残りの9%は不明)。

飼い主の家庭は二人世帯が49%、三人以上の世帯が33%、一人暮らしが18%でした。飼い主の91%は女性で、残りの9%が男性でした。飼い主の69%は年齢が31歳~65歳で、26%は18~30歳、18歳未満+66歳以上が5%でした。

正の強化を使用していた飼い主は3,647人中3,644人でした。飼い主の3%は強い正の罰しか使わず、19%は弱い正の罰しか使わず、6%は強い正の罰と弱い正の罰を組み合わせていました。19%は負の罰しか使わず、これらの全ての罰を組み合わせていたのは13%でした。 正の強化、弱い正の罰、負の罰を組み合わせていたのは33%でした。

環境の刺激が中程度だとする飼い主は39%、ほとんど刺激がないとする飼い主は12%、多くの刺激があるとする飼い主は12%でした。犬と積極的にかかわる時間が1日に1~3時間だったのは70%、1時間未満だったのは14%、3時間より長かったのは16%でした。

HSD質問紙の初回調査の結果と6か月後の調査の結果の相関係数rは0.83でした。2回の調査での結果の違いが1.05ポイントを超えたのは447人中15人(3%)でした。2回の調査での結果の平均的な差は-0.11でした。

HSD質問紙の評価者間信頼性は、r = .65となりました。2人の評定値の差が1.60ポイントを超えたのは120ペア中3ペア(2%)でした。2人の評定値の平均的な差は-0.04でした。

ドイツ語話者よりも英語話者の方が、犬の感覚処理感受性(様特性)の評価が有意に低くなりましたが、小さな違いだったので両言語を含めた分析をしました。男性より女性の方が自身の感覚処理感受性が高かったのですが、犬の感覚処理感受性の評価であるHSD質問紙の結果の男女差は有意傾向にとどまりました。犬の感覚処理感受性と怖がりの間の相関係数rは0.38、犬の感覚処理感受性と神経症傾向との相関係数rは0.41で、どちらも有意でした。

感覚処理感受性が一番高い犬種はシープドッグ、次がポインティング・ドッグ、セントハウンド、コンパニオンドッグ、ピンシャー・シュナウザーグループ、テリア、レトリーバーでした。ドイツの犬は感覚処理感受性が高く、イギリスの犬は感覚処理感受性が低くなりました。しかし、犬種も国も感覚処理感受性への影響は弱かったです。

感覚処理感受性が高かった犬の特徴は、ずっと同じ人に飼育されている、海外から来た、オスだと去勢している、体重が軽い、年齢が低い、飼育開始年齢が低いでした。

飼い主が行動-獣医学者や調教師であるよりも、行動調教師でも行動-獣医学者でも調教師でも獣医でも大学職員でも大学生でもない人の方が犬の感覚処理感受性を高く評価しました。初めての環境刺激よりも現在の環境刺激の方が低いと、犬の感覚処理感受性の評価が低くなりました。強い/弱い正の罰を使う飼い主よりも正の強化しか使わない飼い主の方が犬の感覚処理感受性を高く評価しました。ただ、これらと犬の感覚処理感受性の関係は弱かったです。

また、飼い主自身の感覚処理感受性が1点増加するごとに、犬の感覚処理感受性も0.25点高く評価されました。飼い主自身の感覚処理感受性は犬の感覚処理感受性評定の10%を説明しました。飼い主の感覚処理感受性と犬の感覚処理感受性の間の相関係数rは0.32で、有意でした。

主成分分析によると、HSD質問紙は覚醒能-易興奮性(arousability-ease of excitation)、知覚/応答性-低感覚閾(perception/reactivity-low sensory threshold)、情動性/美的感受性(emotionality/aesthetic sensitivity)という3次元に縮約できました。なお、論文のディスカッションにおいては、審美的気づきや深い情報処理は犬で直接評価することができないため、情動性/美的感受性は「環境の些細な事物に対する注意や気付き(attention to or awareness of subtleties in the environment)」と言い換えることを提案しています。

〇コメント

以上をまとめると、

・犬でも感覚処理感受性を測ることができ、ハイリーセンシティブドッグ(敏感すぎる犬)とでもいうべき個体が存在する

・飼い主による犬の感覚処理感受性の評価は6カ月経っても安定し、他の人による評価ともある程度の一致がある

・犬の感覚処理感受性の評定値は飼い主の性別などの特徴、犬種、国による違いが小さいが、飼い主自身の感覚処理感受性が高いと、犬の感覚処理感受性も高く評価される

・犬の感覚処理感受性と怖がり、神経症傾向にある程度の関係がある

・犬の感覚処理感受性を測る高感受性犬(highly Sensitive Dog,HSD)質問紙は、覚醒能-易興奮性、知覚/応答性-低感覚閾、情動性/美的感受性(環境の些細な事物に対する注意や気付き)に縮約される

となります。なお、人間の感覚処理感受性を測る日本語版ハイリー・センシティブ・パーソン尺度(HSPS-J19)も低感覚閾、易興奮性、美的感受性で構成されます(髙橋, 2016)。したがって、犬とヒトとで感覚処理感受性構造に類似性が存在することが示唆されます。


犬と言えば、近年犬のfMRI研究が盛んですが、「敏感すぎる犬」のfMRI研究をする研究者はでてくるのでしょうか?なお、人間では「敏感すぎる人」のfMRI研究が行われたことがあります。

スポンサードリンク

Comment

スポンサードリンク

Trackback
Comment form
カテゴリ
ランキング
Twitter
スマートフォンサイト
Amazon書籍
場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

リンクについて
このサイトはリンクフリーです。リンクの取り外しはご自由になさって下さい。個別ページのSNSでの共有やブログ、サイトへのリンクも自由です。
プライバシーポリシー
当ブログはGoogle Adsense広告を掲載しています。Google Adsenseでは広告の適切な配信のためにcookie(クッキー)を使用しています。ユーザーはcookieを無効にすることができます。

なお、Google Adsenseで上げた収益は将来のホームレス生活を見越し、すべて貯金にまわしています。
免責事項
ブログ記事の内容には万全の注意を払っていますが、管理人はその内容の正確さについて責任を負うものではありません。

PAGE TOP