「特別なニーズ」という表現は逆効果 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

「特別なニーズ」という表現は逆効果で、障害という表現よりもネガティブな評価を受けるという研究があります。場面緘黙児・者も特別なニーズのある生徒・学生とされることがありそうなので、とりあげることにします。

なお、それ以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

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Gernsbacher, M. A., Raimond, A. R., Balinghasay, M. T., & Boston, J. S. (2016). “Special needs” is an ineffective euphemism. Cognitive Research: Principles & Implications, 1:29. DOI: 10.1186/s41235-016-0025-4.

アメリカのウィスコンシン大学マディソン校心理学研究室、カンザス大学コミュニケーション研究室の研究者による論文です。

〇序論(背景)

婉曲表現は人の気分を害さないために使われることがあります。しかし、逆に婉曲表現で相手が不愉快になることもあります。また、婉曲表現は直接言うよりも有効性が低くなることさえあります。

disability(障害)という言葉の婉曲表現は巷に溢れており、2010年にアメリカ心理学会が恩着せがましいとして婉曲表現を使うのを避けるように勧告したほどです。カンザス大学自立生活研究・研修センター(Research and Training Center on Independent Living,RTC/IL)や米国言語聴覚士協会(American Speech-Language-Hearing Association,ASHA)も同様に障害の婉曲表現は逆効果だとしています。障害とジャーナリズムに関するナショナル・センター(National Center for Disability Journalism,NCDJ)も特別や特別なニーズという用語は婉曲的にスティグマを助長しているとして、使用を控えるよう勧告しています。

「特別なニーズ」という言葉を使用しないように要請するロビー活動も活発で、Twitterのハッシュタグでは「#NotSpecial #SayTheWord #Disabled」というタイプがあります。#Don’tCallMeSpecialキャンペーンというものも立ち上げられたことがあります。障害学の学者、コリン・バーンズ氏は、特別教育をインクルーシブ教育に、特別な教育ニーズを満たされていない教育ニーズに、特別な教育ニーズを持つ子を障害児と置き換えるよう主張する運動を展開したことがあります。

しかし、「特別なニーズ」という用語が人気を博しています。下のグラフはGoogleのNGramデータからのものです。なお、GoogleのNGramとは何ぞやという方は「Google Books収録の本に登場する緘黙症の出現頻度」という記事を参考にしてください。

一見して分かるように、20世紀前半は「特別なニーズ」という用語を使用する本は少ないです。しかし、20世紀後半から「特別なニーズ」という用語を使用する出版物が増加しています。

特別なニーズという言葉を使う主版物が1960年代以降増えていることを示すグラフ
論文のFig. 1より転載(本論文はオープンアクセスでオリジナルの著者とソースを明示し、Creative Commons licenseへのリンク、変更を提示しさえすれば、どのような情報媒体でも使用、配布、複製が制約なしに可能です。ライセンス、Creative Commons Attribution 4.0 International Licenseへのリンクはこちら⇒https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)

障害の婉曲表現としての特別なニーズ(special needs)という用語の起源ははっきりしていません。しかし、スペシャルオリンピックスや特別教育(special education)が語源という説があります。特別教育の概念は1960年代に確立し、スペシャルオリンピックスの起源ともいわれる、知的障害児のデイキャンプの実施が1962年、第1回スペシャルオリンピックス国際大会の開催が1968年でした。

なお、以下に図示するように「handicapped(ハンディキャップド)」という言葉を使う本は、1980年以降減少しています。

ハンディキャップドという言葉を使う主版物が1900年から増加し、1980年代にピークとなり後に低下していることを示すグラフ
論文のFig. 2より転載(GoogleのNGramデータを使用)

しかし、少なくとも米国では特別なニーズという言葉は法律用語ではなく、アメリカの法律では障害者は障害者(障害のある人,individuals with disabilities)と呼称されています。米国連邦法では特別なニーズという用語を使うことがありますが、それは障害の婉曲表現としてではありません。

ただ、障害のある子どもや大人と関わる専門家、あるいは両親は障害という言葉が嫌な人もいて、中には特別なニーズの方が良いという意見も存在します。

〇目的

さて、障害より特別なニーズの方が良いのか悪いのか、それを実証的にはっきりさせるのが本研究の目的でした。対象は一般人、障害児の親、障害児にサービスを提供する専門家、障害のある人と関わる人でした。

〇方法

参加者はアマゾンメカニカルターク(Amazon Mechanical Turk,Amazon MTurk)で募集した530人の大人で、データ解析したのは527人。平均年齢30.2歳(標準偏差 8.9歳,範囲18~69)。男性が66%、女性が33%、性的2型に当てはまらなかったのが1%。

*アマゾンメカニカルタークとは、オンライン環境で短時間、低コストで大規模な調査・実験ができるアマゾンのクラウドソーシングサービスのことです。

障害を持つ人と何らかのつながりがあった人は37%。18%が障害者と血縁関係があり、16%が障害者の友達で、6%が自分に障害があり、5%が障害者の職場仲間、4%が障害児と関わる仕事に従事、4%が障害を持つ大人と関わる仕事に従事、3%が障害児の親(これらを合わせると37%を超えますが、複数項目に該当する人がいたので間違いではありません)。障害者との関わりがなかった人が61%、障害者との関わりを明らかにしなかった人が2%。

方法はヴィネット(vignettes)方式。ヴィネットとは具体的な状況や人に関する説明を用いた調査形式のことです。今回はたとえば、自分が寄宿舎に住む予定の大学新入生であることを想像し、ルームメイトを選択してもらいました。他にはクラスにどの子を入れるか考える先生役や重要なプロジェクトを一緒に進める同僚を選択する中年労働者役を想像するシナリオなどを設定しました。

ルームメイトや子供、同僚等の選択では選択肢が4種類ありました。参加者には、ルームメイトになりたい人やクラスに入れたい子、一緒に働きたい同僚などを1位から4位までランキングしてもらいました。これは人物紹介文章を読んだ後に行いました。

実験条件は以下の4つ
・抽象的障害条件:選択肢の人物の説明に「Aさんは障害を持っている」という記述がある
・特定障害条件:選択肢の人物の説明に「Aさんは〇〇(障害名)を持っている」という記述がある
・特別ニーズ条件:選択肢の人物の説明に「Aさんは特別なニーズを持っている」という記述がある
・統制条件:選択肢の人物の説明に障害に関する記述がない

*「Aさんは〇〇(障害名)を持っている」の〇〇に入れる具体的な障害は、盲目、てんかん、自閉症、ダウン症候群、ADHD、聾唖のいずれかに設定。

障害に関する記述以外はすべて一緒にしたので、これらの条件で結果が違うのならば、それは障害に関する記述の違いによるものだと推定できる仕掛けでした。また、シナリオには大学生、子供、中年の大人という3種類の人物を設定したので、年齢の影響も検討できました。ジェンダーの手がかりになる記述はなく、ジェンダーの影響を排除できました。

予備研究で、障害や特別なニーズに関する記述を追加する前は、選択肢となる4人全員が同程度に選好されることを確認済みでした。

ヴィネット調査の後、人口統計学的調査を実施。最後に、参加者には特別なニーズや障害があるまたは複数の障害があると聞いて自由に連想する言葉を回答してもらいました。それぞれ最大回答可能数は5つでした。

〇結果

ランキングが4位(最下位)だったことが多い順に、特別ニーズ条件(40.4 ± 4.2%)>特定障害条件(34.7 ± 4.0%)・抽象的障害条件(33.4 ± 4.0%)>統制条件(26.6 ± 2.2%)でした(±は95%信頼区間)。ただし、統制条件と特定障害条件・抽象的障害条件の間に統計学的な有意差があったかどうかは本文には書かれていませんでした(その他は記述あり)。この結果は、大学生、子供、中年の大人の選択のいずれにおいても生じました。

自分が障害者であるかまたは障害者と関りのある人は、そうでない人よりも特別ニーズ条件のランキングが最下位になることが少なくなりました(その他は有意差が検出されず)。また、自分が障害者であるかまたは障害者と関りのある人は、ランキングを最下位にする可能性に関して、特別ニーズ条件と抽象的障害条件や特定障害条件の間に有意差が検出されませんでした。

自由連想に対する回答では、特別ニーズの場合(M = 4.918; SD = 0.522)と障害があるまたは複数の障害がある(以下障害とする)の場合(M = 4.934; SD = 0.442)とで有意に回答数が異なることはありませんでした。

自由連想への回答は感情的なもの、思い浮かぶ障害に関するもの、その他に関するものに分けられました。感情的なものはポジティブ、ネガティブ、ニュートラルの3種類で、参加者の回答の約40%を占めました。思い浮かぶ障害に関するものは身体障害、発達障害、感覚障害、精神障害の4種類で、参加者の回答の約30%を占めました。その他は、共感、配慮、より多くの情報を要求の3種類で、参加者の回答の約25%を占めました。残りの5%未満はカテゴライズしませんでした。

自由連想で感情語を回答した場合、障害に関する連想よりも特別なニーズに関する連想の方がネガティブな言葉を使うことが有意に多くなりました(障害で41%、特別なニーズで49%)。また、障害よりも特別なニーズの方がポジティブな言葉の連想が有意に少なく(障害で22%、特別なニーズで18%)、ニュートラルな連想も有意に少なくなりました(障害で37%、特別なニーズで33%)。

自分が障害者であるかまたは障害者と関りのある人は、そうでない人よりも全体的にネガティブな連想が少なく、ポジティブな連想が多くなりました。しかし、両者ともに障害よりも特別なニーズの方がネガティブな連想を引き起こしたことに変わりはありませんでした(障害 vs. 特別なニーズで自分が障害者であるかまたは障害者と関りのある人は33% vs. 41%、そうでない人で45% vs. 54%)。

自分が障害者であるかまたは障害者と関りのある人でもそうでない人でも、障害よりも特別なニーズの方がポジティブな連想が少なくなりました(障害 vs. 特別なニーズで自分が障害者であるかまたは障害者と関りのある人は32% vs.25% 、そうでない人で17% vs. 14%)。

自由連想で思い浮かぶ障害に関するものでは、障害(37%)よりも特別なニーズの方(73%)が発達障害の連想が有意に多くなりました。障害よりも特別なニーズの方が連想することが有意に少なかったのは身体障害(36% vs. 10%)と感覚障害(17% vs. 8%)でした。精神障害の連想は障害で10%、特別なニーズで10%と同じ割合で有意差も検出されませんでした。

自由連想のその他に関しては、障害(18%)よりも特別なニーズ(11%)の方が有意に「より多くの情報を要求(リクエスト)」を連想しませんでした。共感の連想は障害で28%、特別なニーズで25%で有意差は検出されませんでした。障害(55%)よりも特別なニーズ(64%)の方が配慮の連想が有意に多くなりました。

〇コメント

以上をまとめると、

・障害がある人というよりも特別なニーズがある人という方がネガティブに評価される(ルームメイトにしたくない、クラスに入れたくない、仕事を一緒にしたくない等)。盲目、てんかん、自閉症、ダウン症候群、ADHD、聾唖といった特定の障害がある人よりも特別なニーズがある人という方がネガティブに評価される。これは障害のある人/特別なニーズのある人の描写が大学生、子供、中年の大人のいずれにおいても生じる。

・自分が障害者であるかまたは障害者と関りのある人(障害者の親戚、親、友達、職場仲間、仕事で障害者と関わる人)は、そうでない人よりも特別なニーズのある人の評価が高い。

・自分が障害者であるかまたは障害者と関りのある人は、特別なニーズのある人と障害がある人、特定の障害がある人への評価が有意に違わない。

・自由連想での感情語は、障害に関する連想よりも特別なニーズに関する連想の方がネガティブな言葉を思いつくことが多い。障害よりも特別なニーズの方がポジティブな言葉の連想、ニュートラルな言葉の連想が少ない。

・自分が障害者であるかまたは障害者と関りのある人は、そうでない人よりも全体的にネガティブな連想が少なく、ポジティブな連想が多い。しかし、どちらにせよ、障害よりも特別なニーズの方がネガティブな連想を引き起こし、ポジティブな連想が少ない。

・自由連想で思い浮かぶ障害に関するものでは、障害よりも特別なニーズの方が発達障害の連想が多い。

・障害よりも特別なニーズの方が連想することが少ないのは身体障害と感覚障害で、精神障害の連想には大差なし。

・自由連想のその他に関しては、障害よりも特別なニーズの方が「より多くの情報を要求(リクエスト)」を連想しない。

・障害よりも特別なニーズの方が配慮の連想が多いが、共感の連想は大差なし。


となります。要するに、障害の婉曲表現として「特別なニーズ」という言葉を使うことは逆効果の可能性があるということです。

論文の考察では、特別なニーズという言葉の意味が曖昧で、文脈によっては誰しも特別なニーズを持つ存在になり得ると書かれてあります。また、「特別なニーズ」は障害がない人とある人の分離を引き起こし、人権や市民権、障害者の権利といったものが特別な権利になってしまうと議論されています。

さらに、ディスカッション部では、特別なニーズはdysphemism(偽悪語法?)で、差別的な表現だという主張もされています。ここでのdysphemismとは、元の言葉よりもネガティブな含蓄をもった婉曲表現という意味です。しかも、将来的には特別なニーズはdysphemistic metaphor(偽悪語法的?メタファー)になる可能性さえ指摘しています(偽悪語法的メタファーの例として、ものが言えないという意味のdumbという障害特異的表現が馬鹿なという意味を帯びるなどが論文で紹介されています)。そして、著者は特別なニーズという言い方は止め、婉曲表現でない障害という言葉を使うことを推奨しています。

特別なニーズという表現をするとネガティブに捉えられるというのが本論文の主旨です。しかし、実際問題として、特別な教育的ニーズのある生徒の存在には良い影響があることも示唆されています。総サンプル数が四百八十万人となったメタ分析研究(研究数k = 47)では、クラスに特別な教育的ニーズのある生徒がいると、特別な教育的ニーズのない生徒の学績が少し高まった(d = 0.12,95% CI: 0.02, 0.23)との結果が得られています(Szumski et al., 2017)。インクルージョン教育には障害がない生徒、特別な教育的ニーズのない生徒にも良い影響がある可能性があるというわけです。

DSM-5の発行を機に不安障害が不安症になったりと、精神障害も呼称が変更されることがありますが、その影響を実証的に調べる必要があるでしょう。「特別なニーズ」と「特別」という単語が重なっている特別支援(教育)等の言い方の影響も調査した方が良いかもしれません。

選択性緘黙よりも場面緘黙(症)の方が良いという意見が当事者などからあがっていますが、実際に名称を変更した場合に予想される影響について、実験的に検証した研究は私の知る限り、あるいは思い出せる限りありません。本論文のような手法を用いて調査すれば、もしかしたら場面緘黙よりも選択性緘黙という呼称を使う方が「自分の意思で喋らない」等と思われやすいということが説得力をもって示されるかもしれません(し、されないかもしれません)。

〇引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Szumski, G., Smogorzewska, J., & Karwowski, M. (2017). Academic achievement of students without special educational needs in inclusive classrooms: A meta-analysis. Educational Research Review, 21, 33–54. doi:10.1016/j.edurev.2017.02.004.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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