場面緘黙症状そのものは教員にとって問題ではない? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

2017年9月20日(水)~22日(金)を会期として開催予定の日本心理学会第81回大会(会場:久留米シティプラザ)で場面緘黙症(選択性緘黙)に関する一般研究発表(ポスター)が予定されています。そこで、本ブログでもこのポスター発表についてふれておきます。

責任発表者は札幌国際大学大学院心理学研究科の新井翔氏、連名発表者は札幌国際大学の中野茂教授です。

新井翔 ・中野茂(2017). 教員はどのように場面緘黙の生徒を評価しているか 第81回日本心理学会大会発表論文集,
英語表記:Arai, S., & Nakano, S. (2017). How do School Teachers Appraise Selective Mutism Child. Proceedings of the 81th Annual Convention of the Japanese Psychological Association,

〇目的

以下の3点の把握を目的とした研究です。
・「教員から場面緘黙の生徒がどのように見られているか」?
・場面緘黙の生徒が「学校生活においてどのような課題を抱えているのか」?
・教員が?「教室内でどのような位置づけを担っていると考えられているか」?

〇方法

参加者は、「中学校3年生の場面緘黙の診断のついた生徒を担任する教員1名」と「教科担当教員3名」と「管理職員1名」。半構造化面接を行い、内容を記録。質問項目は以下の8点。

1.「学校での様子について」
2.「学習について」
3.「指導・授業計画」
4.「場面緘黙情報理解・教員個人」
5.「場面緘黙情報理解共有・教員全体」
6.「話す以外の代替手段」
7.「生徒の家族について」
8.「総合」

プロトコル分析を使用。プロトコル分析とは、参加者に頭に浮かんだこと、考えていることについて口に出してもらい、その内容を分析する手法のことです。

〇結果

プロトコル分析について詳しく知らないので、正確な内容はつかめなかったのですが、私が読み取ったことを書きます。なので、もしかしたら間違いがあるかもしれません。

半構造化面接での質問への回答に対して、「プロトコル分析のカテゴリー分けの結果、『1.教員との関係』『2.生徒同士の関係』『3.学力』『4.進学』『5.就職』『6.緘黙症状』の分類がされ」ました。

「学校での様子について」や「学習について」の質問に対する回答で、教員は『緘黙症状』よりも『学力』に関心があるようでした。

「指導・授業計画」の質問に対する回答では、『教員との関係』『生徒同士の関係』が抽出され、「問題視されていない」ようでした。

「場面緘黙情報理解・教員個人」や「場面緘黙情報理解共有・教員全体」の質問に対する回答では、『緘黙症状』が抽出されました。

「話す以外の代替手段」の質問に対する回答では、『教員との関係』『生徒同士の関係』が抽出され、「非言語コミュニケーションをしていることが示され」ました。『進学』『就職』も抽出され、「ともに中学校卒業後は不利になると」教員は考えているようでした。

「生徒の家族について」の質問に対する回答では、『進学』『緘黙症状』が抽出されました。

「「総合」では応答性が見られないため、『1.教員との関係』において伝わっているかがわからず指導方法がわからないという回答が得られ」ました。「教員の場面緘黙の生徒に対する困り感は、5段階評価で2」で、「改善することは難しいだろうという評価」。「生徒自身が抱える困り感の予想は5段階評価で2」。

〇コメント

教員の関心が『緘黙症状』よりも『学力』にあるのは、「回避行動によって、学習や社会経験の機会を失っていることに対する懸念が回答の中心」となっていることから読み取れたそうです。緘黙症状があると、分からないことを他の人に聞けなかったり、他者との交流の中で学べることを習得するのが難しかったりしそうで、納得がいきます。

「場面緘黙情報理解共有・教員全体」の質問に対する回答では、「場面緘黙の生徒は話さず自己主張が弱いため、問題行動を起こさず全体会議で扱われるような議題に昇ることがない」。「そのため、場面緘黙の生徒を対象とした情報共有や会議の場が設定されることはなく、教員間での情報共有は他の問題行動を起こす生徒よりもされていなかった」という実態が浮かび上がりました。これは場面緘黙に関する情報に神経をとがらせている方ならば、似たようなことを多かれ少なかれ聞いたことがあるかもしれませんね。

参考記事⇒問題を起こさない緘黙児は放置されるか?

私の読み間違いでなければ、「話す以外の代替手段」を中学校卒業後以降もとると、『進学』や『就職』が不利になると教員は考えているようでした。これは、高校以上(社会人を含む)ともなれば、小中学校よりも生徒の自主性が重んじられることと無関係ではないでしょう。社会人ならなおさら自分から行動しなければならず、話せないことはハンディキャップになり得ます。場面緘黙症状があるまま就職活動をするのは、厳しそうですし。

結果の最後には、「現在の学校生活では教員も場面緘黙生徒も困っていないという捉え方を」教員側がしている、「また、教員による困り感の争点は場面緘黙という症状自体にはなかった」と私にとっては驚くべきことが記載されています。少なくとも、本研究に協力した教員にとっては、場面緘黙症状は問題とはならなかったようです。これは緘黙生徒を受け入れていたからなのか、生徒の症状が軽かったのか、それとも楽観視していただけなのかという疑問がわきます。しかし、「話す以外の代替手段」を中学校卒業後以降もとると、『進学』や『就職』が不利になると考えている、「改善することは難しいだろうという評価」があるとすれば、将来を楽観視していたわけではなさそうです。

少なくとも本研究では、教員は場面緘黙の生徒は学校生活でそんなに困っていないと考えていたようです。これは、もしあるとするならば、教員が場面緘黙生徒を放置する原因の1つにもなってきそうです。

長期的に見ると場面緘黙があると社会生活上不利益を被る可能性があるが、短期的には学校生活上で適応できていると教員は考えているという「場面緘黙の緊急性のなさが問題を長期化させている要因の一部と考えられる」とポスター発表は締めくくられています。

参加者数から見て、これはほとんど事例研究に近い形です。したがって、本研究成果だけで外挿することには危険が伴います。

○引用文献(URLは2017年9月3日現在)
新井翔 ・中野茂(2017). 教員はどのように場面緘黙の生徒を評価しているか 第81回日本心理学会大会発表論文集,
英語表記:Arai, S., & Nakano, S. (2017). How do School Teachers Appraise Selective Mutism Child. Proceedings of the 81th Annual Convention of the Japanese Psychological Association,
https://www.myschedule.jp/jpa2017/search/detail_program/id:808
https://www.myschedule.jp/jpa2017/img/figure/10607.pdf

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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