喋っていると感じるのに喋る必要はない | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

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今回は前回の記事「喋らなくても喋っている感覚は味わえる」の続編です。論文オーサーも前回と全く同じです。しかし、喋っている感覚を味わう方法は、前回とは異なります。

なお、私の別のブログ、『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』の最近の記事は以下の通りです。

見つめられると笑顔になる
ラーメンの想起は実験協力意図を低下させる
心の理論が読解力の発達に寄与するメカニズム
浮気をしたことがあるかどうかは声を聞けば分かる

Banakou, D., & Slater, M. (2017). Embodiment in a virtual body that speaks produces agency over the speaking but does not necessarily influence subsequent real speaking. Scientific Reports, 7:14227. doi:10.1038/s41598-017-14620-5.

スペインのバルセロナ大学神経科学研究所&心理学研究室臨床心理学精神生物学研究室イベントラボ、Passeig Lluís Companysのカタロニア先進研究所?(Institució Catalana de Recerca i Estudis Avançats,ICREA)、イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドン情報工学科の研究者2名による論文です。

〇方法

被験者間計画。バーチャルリアリティーの実験のため、ラップトップの前のスツールに着席し、ヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display,HMD)を装着。スピーカー・イヤホン・マイクロフォン内臓ヘッドセット、ヘッドトラッキングを使用。実験を通して女性オペレーターが常在。

・視運動同期群(11人,男性6人,女性5人):全体的な身体の動きの同期アリ
・視運動非同期群(10人,男性4人,女性6人):全体的な身体の動きの同期ナシ
・視触覚同期群(18人,男性9人,女性9人):後述
・視触覚非同期群(18人,男性9人,女性9人):後述
*平均年齢はいずれも21~23歳。全員スペイン語を母語としていました。どの群の参加者もバーチャルリアリティーの経験がほとんどありませんでした(と書かれていましたが、けっこうばらつきがあるようなないような)。コンピュータゲームをする時間も群間で同程度でした。

バーチャル身体は一人称視点で、参加者の性別と同じものを使用。バーチャル身体は、実際の自分の身体を見ることでも、バーチャルミラーでも見ることができました。バーチャルルームを見渡す際には頭だけ動かせ、身体は動かさないように教示。最初の2分間は見た物の説明を求め、注意をバーチャルリアリティーに集中させました。その後、バーチャル身体へ注意を促しました。次の5分間、バーチャルボールをバーチャル身体に当てました(詳細は後述)。

視運動刺激は、全体的な身体の動きの同期/非同期ということしか書かれていませんでした。先行研究(Banakou & Slater, 2014)と似たような実験設定なのかもしれません。というより、私の見逃しでなければ、結果に視運動同期/非同期の実験について1つも書かれていないようなのですが。。。この論文、説明が不親切で読み解くのに苦労します。論文の読者に忖度を求めるとは何事や!と怒りたくなります。

視触覚刺激は手と腹部に施行。手・腹部に装着したバイブレータで触覚刺激を、バーチャルボールで視覚刺激を演出。視覚刺激であるボールが左手・右手・腹部の内のどれかにランダムに衝突する映像をHMDで流し、それに対応する触覚刺激をバイブで与えました。視触覚刺激は同期の場合にはほとんど同時に、非同期の場合には時間をずらして与えました。同期条件で「ほとんど」同時にとあるのは、機械の信号伝達、信号を受けての駆動で遅延時間が10 msほどありましたが、それは無視できる範囲だったからです。非同期群はバイブによる振動をランダムに実施し、ボールの衝突タイミングとの関連を持たせませんでした。実験に集中させ、バーチャルミラーのせいで身体のどの部分にバーチャルボールが接触しているか混同するのを防ぐため、約1分間おきにビープ音を鳴らし、身体を見下ろすのとバーチャルミラーを通して見るのとを変えさせました。

次の5分間、バーチャルミラーに注目させて、ヘッドホンを通して刺激声(単語)を流し、それと同期してバーチャル身体の唇が動きました(バーチャル身体が喋っているかのように見せました)。

使用単語はPANS掲載論文(Banakou & Slater, 2014)と同じ。子音-母音-子音型のスペイン語の単語で1音節または2音節のものをランダムに9つ選択。バーチャル身体の声として、男性版と女性版を事前に準備。実験参加者が男性の場合は男性版の声、実験参加者が女性の場合は女性版の声を使用。刺激声は、男性でも女性でもスペイン人の平均基本周波数(Fundamental Frequency,FF/F0)よりも高くしました。

バーチャルリアリティー体験後、以下の質問をしました。回答は-3(全く当てはまらない)~3(非常によくあてはまる)までの7件法でした。
・自分自身に目を落としたときに見えるバーチャル身体が自分のものであると感じる:バーチャル身体の所有感錯覚
・鏡を通して見たバーチャル身体が自分のものであると感じる:鏡に映ったバーチャル身体の所有感錯覚
・バーチャル身体の体格、肌の色合い等が自分の実際の身体と似ていると感じる:統制質問
・まるで2つの身体を持っているかのようだ:統制質問
・実際の自分の身体(腕・手・脚)を動かすと、それに従ってバーチャル身体も動いているかのように感じる:バーチャル身体の主体感
・まるで声が部屋のどこからか聞こえてくるかのようだ:刺激声の所有感錯覚
・まるで声が自分の頭の中から聞こえてくるかのようだ:刺激声の所有感錯覚
・まるで声が自分の声のように聞こえるかのようだ:刺激声の所有感錯覚
・まるで声が自分の声を修正したもののように聞こえるかのようだ:刺激声の所有感錯覚
・まるで聞こえてくる単語を自分が喋っているかのようだ:刺激声の所有感錯覚

参加者の声も記録し、基本周波数を解析。バーチャルリアリティー実験開始前の声と終了後の声でF0を比較。バーチャルリアリティー実験開始前、提示した単語9種類を順に読み上げるように教示。1つの単語につき5回声を記録(単語の提示順序はランダム)。バーチャルリアリティー体験後、HMDが真っ暗になり、その中央に9種類の単語を順に提示し、読み上げるよう求めました。1つの単語につき5回声を記録(単語の提示順序はランダム)。なお、参加者の声の録音に使った単語には、「バーチャル身体が喋った」単語と同じものを用いました。

〇結果

バーチャル身体の所有感錯覚や鏡に映ったバーチャル身体の所有感錯覚、統制質問2種類で同期群と非同期群で有意差が検出されませんでした。

同期群と非同期群をひっくるめた解析で、錯覚が強い順に、バーチャル身体の所有感錯覚>鏡に映ったバーチャル身体の所有感錯覚・バーチャル身体と自分の身体の類似性に関する統制質問>所有している身体が2つだという錯覚となりました。なお、バーチャル身体の所有感錯覚よりも鏡に映ったバーチャル身体の所有感錯覚の方が弱かったのは、バーチャル身体の顔が参加者の顔とは異なることが一因である可能性がありました。

ただし、非同期条件の鏡に映ったバーチャル身体の所有感錯覚以外は、(鏡に映った)バーチャル身体の所有感錯覚得点が正の方向に偏っていたため、ある程度のバーチャル身体所有感錯覚が生じていると考えられました。対して、2つの身体の所有感は得点が負の方向で、錯覚を感じない傾向が強くなっていました。また、バーチャル身体と自分の身体の類似性知覚に関しては、非同期条件で正の方向が強く、同期条件では負から正まで幅がありました。

主体感についても、同期群と非同期群で有意差は検出されませんでした。ただし、同期群でも非同期群でも、主体感が正の方向の得点なので、ある程度バーチャル身体の動きが自分の意図によるものであると感じていたと考えられました。

刺激声の所有感錯覚について、同期群と非同期群で有意差は検出されませんでした。「まるで声が部屋のどこからか聞こえてくるかのようだ」や「まるで声が自分の頭の中から聞こえてくるかのようだ」、「まるで声が自分の声のように聞こえるかのようだ」は負の得点か、または得点の幅が広くなりました。ただし、「まるで声が自分の声を修正したもののように聞こえるかのようだ」「まるで聞こえてくる単語を自分が喋っているかのようだ」は得点が正の値に偏っていたため、参加者が声を発していなくても、バーチャルミラーを通して見ているアバターの唇の動きと同期した声が聞こえると、それが修正された自分の声だという感覚や喋っている感覚がある程度あったと考えられました(特に非同期条件)。

得点が高い順に、主体感・「まるで聞こえてくる単語を自分が喋っているかのようだ」・「まるで声が自分の声を修正したもののように聞こえるかのようだ」>「まるで声が部屋のどこからか聞こえてくるかのようだ」・「まるで声が自分の頭の中から聞こえてくるかのようだ」>「まるで声が自分の声のように聞こえるかのようだ」でした。

視触覚同期群と視触覚非同期群とで、バーチャル身体体験前後の基本周波数の変化に有意差は検出されませんでした。記述統計的には、同期群の周波数変化はほとんどゼロで、非同期群では周波数の低下が生じました。

〇コメント

このような実験結果は、バーチャル身体の所有感、主体感が高いと、たとえ実際には喋っていなくても、バーチャル身体が喋っているんだったら自分は喋っているはずだし、喋る意図もあったはずと、脳が錯覚することで生じると説明されます。

先行研究による、バーチャル身体の「声」のF0に実験参加者の声のF0が近づいたという実験結果(Banakou & Slater, 2014)は、我々が喋る際には無意識的にせよ将来の発声を準備しており、バーチャル身体の声の影響を受けた発声プランニングさえもやってのけるためだと解釈されました。実は今回取り上げた実験の目的は、身体所有感を生じさせる手続きとして、参加者自身の身体の動きとバーチャル身体の動きとが視運動同期することが、声の変化に必要かどうかということを調べることでした。視運動同期による身体所有感錯覚が生じると、バーチャル身体の声に合わせた運動計画が生じ、それで声が変化するならば、視運動同期を用いない身体所有感錯覚では声の基本周波数が変化しないはずだという仮説を立てていました。で、仮説通りの結果が得られたというわけです(でも非同期だと逆方向に変化しているようですが)。

視運動同期では喋る前、喋っている最中に運動野の多くの領域が活性化し、すべての行為が自己に帰属されるとの仮説を、本研究は支持するそうです。というのも、頭部以外の身体を動かさないように求めた本実験において、視触覚同期と視触覚非同期との間で、基本周波数の変化に有意差が検出されなかったからです。第一次運動野とは違って、第一次体性感覚野は、身体部位を1つ刺激したところで、その影響が他の部位に伝播することはありません。なので、声の基本周波数の変化に有意差が生じなかったと考えられます。

視触覚の同期群と非同期群でバーチャル身体の所有感錯覚や鏡に映ったバーチャル身体の所有感錯覚に有意差が検出されませんでした。この原因について論文では以下のことが言及されていました。参加者自身の頭部の動きがバーチャルミラーに写った身体の頭部の動きに反映されていたのは非同期群でも同じでした。また、本研究では身体を動かさないように教示をしていて、実際の身体を動かしてもバーチャル身体は動かないことに気づく機会が少ない実験設定でした(ただし、頭は動かして良い)。

本研究では、視触覚非同期群でもバーチャル身体の所有感錯覚や主体感、喋っている感覚が生じたと、論文著者が解釈した結果が得られました。先行研究にも、一人称視点での視覚-感覚運動同期があるのならば、視触覚非同期でも所有感錯覚が生じたという報告があるそうで、今回の実験だけが特別ではないそうです。

先行研究(Banakou & Slater, 2014)だけでは、もし、場面緘黙児者への支援にバーチャルリアリティーで「喋らなくても喋っている感覚を味わう」というスモールステップを追加する場合、実際に喋ってみると、その声はバーチャル身体の声の基本周波数の方に引きずられる懸念がありました。しかし、本研究によれば、視運動同期ではなく、視触覚同期を用いれば、その心配も無用ということになります。また、少なくとも本研究からは、バーチャル身体の所有感や主体感が主因となって声の基本周波数が変化するとはいえません。さらに、新しい発話運動計画の準備(指標は実験前後のF0の変化)は喋っている感覚が生じるのに必要ではないことが示唆されたことから、仮に場面緘黙児者に発話運動プランニングの障害があったとしても、喋っている感覚の錯覚は誘導できると考えられます。

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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