べた褒めは社交不安が高い子供を赤面させる | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト、方法、結果だけ読むつもりだった、社交不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。ただ、今回は全文読んでしまいました。

なぜ、社交不安(障害)なのかというと、場面緘黙児(選択性緘黙児)は社交不安(社会不安)が高いか、もしくは社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)を併存していることが多いという知見があるからです。また、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き第5版)では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。

今回は、社交不安が高い子供はべた褒めで赤面しやすく、褒めない方が赤面しにくいという研究です。

なお、社交不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事1⇒音楽の幸福、悲しみは1人の方が強く感じやすい
最近の記事2⇒タイピング速度が自動車事故死亡率を予測する
↑記事2ではネット検索において、タイピング速度が最速になる時間帯が午前11頃で、遅くなるのが真夜中~午前3-4時頃という日内変動にも言及しました。

Nikolić, M., Brummelman, E., Colonnesi, C., de Vente, W., & Bögels, S. M. (2018). When gushing leads to blushing: Inflated praise leads socially anxious children to blush. Behaviour Research & Therapy, 106, 1-7. doi:10.1016/j.brat.2018.04.003.

オランダのアムステルダム大学児童発達教育研究所、アメリカのスタンフォード大学心理学研究室の研究者による論文です。

〇目的

本研究の目的は、過剰な誉め言葉が社交不安児の赤面を促進するかどうかを調べることとしました。

〇方法

8~12歳児105人が参加(女児56%)。平均年齢9.50歳(SD = 1.18)。白人が85%。同伴者として片親(母親が77%)が参加(平均年齢43.00歳,SD = 6.15,範囲25–60)。ただし、実験の不備により、9人のデータを解析に含めず。データ解析から除外されたかどうかで子供の社交不安は違うとはいえませんでした(効果量d = −0.15)。

まず最初に子供の社交不安を子供自身と親が評定。尺度は児童社交恐怖・不安質問票(Social Phobia and Anxiety Inventory for Children,SPAI-C)と親報告版児童用社交恐怖・不安質問票(SPAI-C-Parent Report,SPAI-C-P)。いずれも26項目3件法リッカート尺度(クロンバックのα信頼性係数は児童回答で0.96、親回答で0.94)。児童回答と親回答の相関係数は0.50。SPAI-CとSPAI-C-Pをそれぞれ標準化し、平均値を算出。

次に、親を別の部屋に待機させ、子供だけが歌唱実験の手続きに参加。子供はステージ上で自分で選曲した歌を約1分間歌いました。観客は2人。観客の1人はビデオカメラで子供が歌っている様子を撮影。撮影内容を別室のプロの歌手に見てもらうと子供に言いました。歌唱終了後、カメラマンの女性がプロの歌手にビデオを持っていき、このことを子供に伝えました。2分後、プロの歌手が子供がいる部屋にやってきました。この時のプロの歌手の対応が実験操作されました(プロの歌手は研究仮説について知りませんでした)。つまり、以下の3つの条件に子供をランダムに割り当てました(いずれの群においても子供はプロの歌手から自身の歌を評価されるかどうか事前に知りませんでした)。

・プロの歌手が子どもを普通に褒めるフツ褒め群(31人):誉め言葉は「歌、上手かったよ!(“You sang well!”)」
・プロの歌手が子どもをべた褒めするべた褒め群( 37人):誉め言葉は「歌、信じられないほど上手かったよ!(“You sang incredibly well!”)」
・プロの歌手が自分で映像をチェックしたことだけを子供に伝え、子供を称賛しない褒め無し群( 37人):発言は「パフォーマンスを見て、歌を聴いたよ(I saw your performance and I heard you sing a song.)」

赤面の指標は、AC、DC、頬の温度変化(AC、DCについては後述)。AC、DCはフォトプレチィスモグラフィ(光電脈波法)で計測。頬の温度は右頬骨辺りの皮膚に着けたプラチナPt1000センサーで計測。温度センターの横に、フォトプレチィスモグラフィトランスデューサー赤外線プローブを装着。

フォトプレチィスモグラフィとは、血管の容積変化を計測する脈波センサのことです。今回は、赤外線フォトプレチィスモグラフィを使用。論文によれば、交流成分はAC(Alternating Current)、直流成分はDC(Direct Current)と呼ばれます。ACは脈派振幅(心拍に伴う血液量の変化)を反映し、応答が素早いそうです。DCは血液量の平均値で、動脈・静脈・毛細血管の血液貯留を反映し、応答がゆっくりだそうです。ちなみに、頬の温度変化は、血流の増加とその後の血管拡張により、生じるのが遅いのだとか。

褒める前(あるいは歌っている映像を視聴したと事実だけをプロの歌手が子どもに伝える前)の2分間をベースラインとして、そこから実験操作(フツ褒め or べた褒め or 褒め無し)から最初の30秒間の生理的変化の割合をAC応答、DC応答、頬の温度応答として算出。30秒間の設定は、血流ピークを指標とした赤ら顔は赤面開始から15秒以内に生じるとの先行研究による。

〇結果

群間に子供の年齢、性別、社交不安の有意差は検出されませんでした(効果量d は年齢で−0.36、性別で−0.26、社交不安で 0.05)。性別はAC応答、DC応答、頬の温度応答、社交不安と有意な関連は示しませんでした。

AC応答に関して、群や社交不安の主効果は検出されませんでした(と本文に書かれていましたが、表2を見ると社交不安が高いほどAC応答が有意に低いという結果になっています)。しかし、群と社交不安の交互作用は有意でした。つまり、べた褒め群のみ、社交不安が高いほど赤面しました(回帰係数β = 0.40, 95%信頼区間:0.03, 0.76)。フツ褒め群では、社交不安と赤面に有意な関連は見いだされませんでした(β = −0.17, 95%信頼区間:-0.55, 0.21)。褒め無し群では、社交不安が高いほど赤面しませんでした(β = −0.48, 95%信頼区間:-0.90, −0.07)。

AC応答でフツ褒め群や褒め無し群と比較して、べた褒め群で社交不安が高い子供達の赤面が強く、社交不安が低い子供達の赤面が弱くなりました。

褒め無し群において、AC応答が高いほど、頬の温度応答が高くなりました(r = .38)。褒め無し群において、社交不安が高いほど、頬の温度応答が低くなりました(r = -.40)。

実験操作の前の2分間のベースラインにおける赤ら面の絶対値は、どの赤面指標でも子供の社交不安との相関が有意でありませんでした。したがって、べた褒めで社交不安が高い子供が赤面したのに、ベースラインの赤面が影響したとは考えられません。

DC応答、頬の温度応答を指標とした赤面では、多重線形回帰分析で群や社交不安、交互作用の影響は認められませんでした。

本研究結果の頑健性のチェックのために、親子の社交不安評定値の平均値を用いるのではなく、子供評定の社交不安と親評定の社交不安のそれぞれで解析を実施しました。また、先の分析ではAC応答、DC応答は正規分布していなかったため対数変換していたのですが、今度は生データで解析しました。それでも、上述の結果が再現されました。また、子供の自己報告の赤面でもAC応答と同様の結果が再現されました。

〇コメント

以上をまとめると、

・社交不安が高い8~12歳児は、べた褒めで赤面しやすく、褒めない方が赤面しない(普通に褒めるだけだと、社交不安と赤面は有意な関連を持たない)

・社交不安が低い8~12歳児は、普通に褒められるか何も褒められないよりも、べた褒めされる方が赤面しない

・上の結果は、赤面の素早い応答系(AC応答)と自己報告の主観的赤面でのみ生じ、赤面の遅い応答系(DC応答、頬の温度応答)では認められない


となります。要するに、社交不安が高い子供は過剰に褒めることなく、そっとしておいて欲しいのです(ただし、赤面したい子は例外)。論文によれば、社交不安が高い子はべた褒めの内容ほど自己イメージが高くないので、誉め言葉を不相応に感じ、将来的に相手の高い期待に応えられなくて、それでネガティブ評価を恐れ、予防線として赤面で申し訳なさを表明することで、社会的拒絶を回避しようとすると議論されています。また、赤面の社会的注意理論によれば、行き過ぎた称賛で不必要な注目を浴びて、高社交不安児が赤面すると説明されます。

他の解釈としては、社交不安が高い子供の自己疑念、ポジティブな出来事もネガティブに解釈する傾向が、称賛が本当のことでなく、お世辞に聞こえるか、間違って褒めているのでは?との思いを抱かせ、愚かさや恥を感じ、それで赤面するとの議論が論文で展開されています。

社交不安が高い子供は、何も褒められない方が赤面しませんでした。論文では、社交不安が高い子は、ポジティブな評価(称賛)よりも評価をなにも受けない方が、(将来的に相手の期待に応えられず)ネガティブに評価される心配が低く、赤面しにくかったと議論されています。

通常、他者にネガティブな印象を与える懸念がある時に赤面します。しかし、本研究は褒めるというポジティブ評価に伴う赤面という点が独特です。1872年にチャールズ・ダーウィンが『人及び動物の表情について(浜中浜太郎訳/岩波書店)』で「年寄りや敏感な人と同様、多くの子供は褒め称えられた時に赤面する(拙訳で浜中浜太郎氏の翻訳ではありません)」と著して以来、称賛による赤面についてはほとんど研究がされていませんでした。本論文によると、本研究が称賛による赤面を実験的に検討した初の研究です。

●今後の検討課題

論文によれば、学童期の赤面で生理的調査をしたのはこれが初めてのようです。そのため、大人で赤ら顔の生理的指標として信頼性のある方法をとっています。しかし、本当に子供の赤面が大人と同じ方法で測れるのかは、今後の検討が必要です。

赤面の素早い応答系でのみ社交不安と褒め言葉、赤面の関係が検出されたのは、実験設定が赤面の素早い応答系の影響を検討するのに適していたからです。したがって、今回の研究だけでは、赤面の遅い応答系への影響が本当にないのかどうかは分かりません。今後の検証が望まれます。

褒め過ぎで社交不安が高い子は赤面しやすいとのことですが、今回は生理的な側面の研究が主でした。社交不安が高い子は赤面のことを主観的にどう思っているのか、仮に不快で嫌なのだとしたらそれが「褒められそうな状況の回避」につながるかどうかといったことも今後の検討課題です。

褒めることと社交不安の関係といえば、やはりポジティブ評価恐怖・肯定的評価への恐れ/懸念(Fear of Positive Evaluation)でしょうか。俗にいえば褒められ恐怖のことですが、過大な称賛に伴う赤面との関連が気になります。論文によると、8~12歳という年齢層を実験の参加者にしたのは、この年頃は他者の評価が気になり始める頃だからだとか。しかし、称賛という形式での評価に対する関心がいつ頃から高まるのかという詳細な議論は本文ではされていませんでした。

今回参加した児童は8~12歳でした。他者視点の自己評価ができるようになり、赤面しやすくなる発達段階だからこの年齢層で実験していました。しかし、場面緘黙症の発症年齢はそれより低いことが多いとされます。ただ、社会的場面での称賛への感受性の発達には個人差があり、社交不安が高い子供は他の子供よりも早いうちから、称賛への感受性が高いのかもしれません。

なお、ポジティブ評価恐怖については「緘黙児・緘黙者は褒められることが怖いか?や「社交不安→ポジティブ評価恐怖尺度得点が高い→注意バイアス」、「日本語版Fear of Positive Evaluation Scale(FPES)が出版されました」、解釈バイアス、肯定的評価恐怖、社交不安の関係、「批判も称賛も怖い人が最も重篤な内在化問題を示す」等の記事を参考にしてください。

関連記事⇒自尊心が低い?緘黙児を褒め過ぎるのは逆効果

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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