場面緘黙児の不安軽減のためにマインドフルネスを取り入れる | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

場面緘黙児の緊張や不安の低減のために「マインドフルネス」を取り入れた支援を行った研究成果が発表されました。時間がないので速読しただけですが、気になるトピックなのでふれておきます。以下の伊藤・成瀬(2018)では、マインドフルネスの説明として日本マインドフルネス学会の説明を引用し、「今、この瞬間に意図的に意識を向け、評価をせずにとらわれのない状態でただ観ること」としています。

伊藤佐陽子・成瀬智仁(2018). 場面緘黙児に対する不安軽減プログラムの実践的効果の検証-マインドフルネス・プログラムを活用した介入効果- 明治安田こころの健康財団研究助成論文集(安田生命社会事業団研究助成論文集), 53, 69-78.

論文著者の伊藤佐陽子氏は京都西山短期大学准教授。成瀬智仁氏は神戸国際大学所属となっています。成瀬智仁氏は他に「緘黙生徒に対する高校教員の指導意識について -緘黙についての理解と指導意識の類型-」や「緘黙児童に対する小学校教員の教育援助について ―緘黙症状の類型と小学校教員のかかわり―」「緘黙児童に対する小学校教員の教育援助について(2) ―緘黙類型と小学校教員の援助の課題―」など、場面緘黙の研究を多数発表されています。

本研究の趣旨は、発話行動に直接介入するのではなく、「緊張と不安を軽減し、自信と安心を確保して生活の質的向上をはかることから緘黙症状の改善につなげようとする」手法の効果の検証です。そのために、マインドフルネスの実践を軸としたプログラムを施行しました。論文では「身体からの介入を行い、その結果から発話行動の変化をみる取り組み」との説明もあります。本介入はワークショップ・スタイルという点も特徴の1つです。つまり場面緘黙児やその保護者が直接、相互交流しました。

本研究の参加者となる場面緘黙児とその保護者の募集は、京都西山短期大学のHPで「緊張や不安の強い子どもへのワークショップ参加者募集」として行われていました(その他の形態の募集については私の知るところではありません)。ただ、論文では「緊張と不安のある子どもへのワークショップ場面/選択性かんもく(緘黙)児へのカラダ・こころ遊び支援プログラム-」と若干表記が異なります。

〇方法

データ解析の対象は場面緘黙児とその保護者、21~24組の親子。

マインドフルネス・プログラムの効果の検証は、ワークショップ開始前・中間、終了後に以下の項目を評定して実施。介入期間は8カ月間。具体的なプログラム内容については論文を参考のこと。

・感覚運動機能(感覚探求・感覚過敏・総合感覚課題):日本感覚インベントリー(Japanese Sensory Inventory mini,JSI-mini)による

・緘黙状態(「学校・園」「家族」「社会」という場面ごとの評定と「全体」的評定):場面緘黙質問票(Selective Mutism Questionnaire-Revised,SMQ-R)による

・「情緒」「行為」「多動」「仲間関係」「向社会性」各スコア及び合計点での子供の全体像の把握:子どもの強さと困難さアンケート(Strengths and Difficulties Questionnaire,SDQ)による

・「動作表現」と「言語表現」:表現行動調査による。「動作表現」、「言語表現」の詳細は「緘黙の4類型で緘動タイプは高学年ほど多くなる」という過去記事を参照のこと

・緘黙児のワークショップへの参加意欲、楽しさ度合、学生ボランティアに対する馴染み度

・場面緘黙症状の改善度:「緊張する症状」「表情の変化」「積極性」「言葉を話す(声を出す)」、「社会参加意欲」、「全体としての生活の質」でそれぞれの改善度を評定

〇結果(省略あり)

・子どもの緘黙症状に保護者が気付いた年齢:3才が37.5%で最多、次が4才の29.2%、5才の12.5%

・緘黙症状への相談や支援を始めた時期:4才が29.2%で最多、次が5才の16.7%(小1も16.7%)、3才の12.5%(未相談も12.5%)

・保護者の相談先:園・学校が25.0%で最多。次が保健所(保健センター)の16.7%、市町村の発達相談の14.6%、児童相談所の12.5%、地域の小児科病院の10.4%

・教員の場面緘黙児に対する理解度に関する保護者の認識(保育所・幼稚園、小学校)
1.保育所・幼稚園で「どちらともいえない」が最多の35%、次が「全くない」の23%、「理解がある」の18%、「ややある」の18%、「あまりない」の6%。
2.小学校で「ややある」「どちらともいえない」がともに最多の28%、次が「あまりない」の22%、「理解がある」の17%、「全くない」の5%。

以下、マインドフルネス・プログラムの効果の可能性がある結果

・やや偏り傾向の「感覚過敏」の減少

・SMQ-Rでの改善が有意だったのは「全体」のみ

・ワークショップへの参加意欲は女子の方が男子より高く、家庭での課題への取り組みを「楽しんで取り組めた」や「ワークショップを楽しみにしている」子どもも女子の方が多かった

・ワークショップのプログラムを楽しみにしている子どもほど、場面緘黙の「表情」症状が改善傾向

・緘黙児の多動特徴に対しては育児ストレスが高いとはいえないが、その他の特徴で保護者の育児ストレスが高い。マインドフルネス・ワークショップ前後で育児ストレスの変化は検出されず。

・保護者の「親自身に関するストレス」は「夫との関係」で高いとは言えないが、残りのストレス項目が高い。ワークショップ前後で「親役割で生じる規制」が低下。

〇コメント

RCT(ランダム化比較試験,Randomized Controlled Trial)でないため、単なる時間経過で改善した、あるいはマインドフルネス・プログラムそのものの効果ではなく、他の緘黙児家庭やサポートの学生との交流が緘黙の改善を促した可能性を捨てきれません。また、マインドフルネスには副作用が生じることがあります。たとえば、自尊感情が高い人にマインドフルネスは逆効果という報告(Ford, 2017)があるのです。マインドフルネスを導入した取り組みの効果を左右する個人差に関わる要因の検討が必要です。

参考:マインドフルネスは万能ではないその他の実験例⇒コンピューター上のやり取りでマインドフルネスは逆効果

緘黙とマインドフルネスとの関係については先行研究があります。それによれば、小学生の場面緘黙傾向を弱めるにはディタッチト・マインドフルネスを高める方法が有効である可能性(二宮他, 2015)があります。今後とも、不安症の種類によって治療効果が違うとはいえないマインドフルネス(Boettcher et al., 2014)に基づく研究が要求されます。

場面緘黙質問票(SMQ-R)での改善は全体的に認められましたが、「学校・園」「家族」「社会」での変化は有意でありませんでした。論文を読んだ限りでは、場面ごとに個別のマインドフルネス・プログラムを実施したというわけではなさそうなので、その辺りが関係してくるのかもしれません。もっとも、「家庭での課題への取り組み」で「学校・園」「家族」「社会」の区別をつけた段階的実践をすることも可能だと思われますが。

本論文だけでは詳細は不明ですが、やや偏り傾向の「感覚過敏」の有意な減少というのは興味深いです。海外では場面緘黙症の疑いがある子供の75.9%に1種類以上の感覚過敏があり、特に食べ物の好き嫌いが激しいのは35.1%、聴覚過敏は33.7%、ヘアーブラッシング/ウォッシングへの過敏症は30.2%と健常発達児(各々9.7%,11.9%,13.0%)と比較して多いという調査結果(Steinbeck et al., 2016a)があります。 緘黙児にどの様な感覚過敏があり、どのような介入で過敏症が緩和されるのか、今後の検討が望まれます。

ワークショップへの参加意欲は女子の方が男子より高く、家庭での課題への取り組みを「楽しんで取り組めた」や「ワークショップを楽しみにしている」子どもも女子の方が多かったです。しかし、女児15人、男児8人と(データ解析に含めた)参加人数に差があり、これが参加意欲や期待に影響している可能性があります。なので、今回の結果だけを見て、緘黙男子の方が参加意欲や期待が低いなどと判断するのは早計だと考えられます。ワークショップに参加する緘黙児の性比が参加意欲や楽しさ、期待に影響するかどうか、検討する必要がありそうです。ただ、家庭での課題に関しては性比の影響はないかもしれませんが。

それにしても、マインドフルネスを中心とした介入プログラムで緘黙児の緊張や不安を下げることで、間接的に緘黙症状を改善させようという試みなのに、緊張・不安を直接評定していない/評定数が少ないのはどういうことでしょうか。「動作表現」は「対人恐怖の傾向」や「緊張の度合い」との相関が強いとの報告(成瀬, 2015)がありますが、緊張・不安そのものではありません。従属変数の設計が研究目的に合致しているかどうか微妙な研究です。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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