場面緘黙児への集中集団行動療法、行動観察で効果を検証 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

2018年11月15日~18日、ワシントンD.C.で開催されたアメリカ行動療法認知療法学会第52回年次大会(Association for Behavioral and Cognitive Therapies 52nd Annual Convention)にて、場面緘黙児への集中的集団行動療法の効果を行動観察で検証した研究が発表されました。

Hong, N., Cornacchio, D., Furr, J. M., & Comer, J. S. (2018). Utilizing Observational Measures to Evaluate the Efficacy of Intensive Group Behavior Therapy for Children with Selective Mutism. Poster presented at 2018 Annual Convention of the Association for Behavioral and Cognitive Therapies, Washington Marriott Wardman Park Hotel, Washington, DC. <https://www.eventscribe.com/2018/ABCT/fsPopup.asp?efp=R1FDRUhCTUg2MzM3&PosterID=163964&rnd=0.5062361&mode=posterinfo>

研究者は全員フロリダ国際大学に所属を持っています。特に、Natalie Hong氏とJonathan Comer氏はフロリダ国際大学の精神衛生介入・技術(Mental Health Interventions and Technology,MINT)プログラムに参画しています。Jami Furr氏は言語環境解析(Language ENvironment Analysis,LENA)を用いた場面緘黙症研究の先駆者です。

〇背景

場面緘黙児は評定者に対して喋れない等、緘黙児のアセスメントには特有の困難があります。そのため、場面緘黙児の評定には、行動観察尺度が重要な要素になります。

〇目的

本研究の目的は、場面緘黙症への集中的集団行動療法の効能を行動観察尺度を用いて評価することにありました。集中的集団行動療法は英語だと、" Intensive Group Behavior Therapy"であるため、アクロニムはIGBTとなります。

〇方法

参加者は場面緘黙児29名(年齢5~9歳)。

親子の口頭言語交流を場面緘黙交流コーディングシステム-拡張改訂版(Selective Mutism Interaction Coding System-Extended, Revised version,SMICS-ER)で評定。評定は、見ず知らずの人がいない場合といる場合に行いました。また、IGBTの前と後でSMICS-ERによる評定を実施し、比較しました。

また、教室環境での交流中の口頭アウトプット(Verbal Output during Interactions in the Classroom Environment,VOICE)で集団場面での子供の口頭応答を評価しました。VOICEによる評価は、5日間の連続治療中に毎日実施しました。

〇結果

・SMICS-ER:治療前と比較して治療後は、見ず知らずの人がいる時の緘黙児の自発的発話、親への口頭での応答、見ず知らずの人への回答が向上していました。

・VOICE:治療が進むにつれて、集団場面での緘黙児の発声数が対数関数的に増加していきました。また、発声応答を開始するのに必要な促しの数は対数関数的に減少していきました。

〇コメント

本研究はRCT(ランダム化比較試験)ではありませんが、注目すべきは以下の2点です。

1.場面緘黙児に対する集中的集団行動療法の効果を検証

近年場面緘黙児への行動療法や認知行動療法などの効果をRCTで検証した研究が出版されています。しかし、いずれも介入期間が数カ月間と長期に及んでいました。たとえば、世界で初のRCTの可能性のあるBergman et al. (2013)の「場面緘黙症への統合的行動療法」は24週間ですし、場面緘黙児への心理社会的介入の効果を検証した研究も3ヵ月間(Oerbeck et al., 2014)で比較的長期にわたるものでした。したがって、今回のような短期集中型の研究は進展していないのが現状で、その意味で本ポスター発表は注目に値します。

ただ、短期集中型の治療研究もないわけではなくて、1週間の集団行動治療が場面緘黙児に与える効果をRCTデザインで検証した研究(Cornacchio, 2018)もあります。この研究と同じかどうかは不明ですが、フロリダ国際大学のJonathan S. Comer教授のCV(Curriculum Vitae,履歴書)によれば、"場面緘黙児への集中的集団行動治療:予備的RCT(Intensive group behavioral treatment (IGBT) for children with selective mutism: A preliminary randomized controlled trial.)"という論文がJournal of Consulting and Clinical Psychologyというジャーナルで査読中です。ただし、リジェクトされるなどで他のジャーナルに掲載されるかもしれませんし、あるいはボツになって闇に葬られる可能性もあります。

ちなみに、今回のVOICEやSMICSに関する"場面緘黙の行動観察課題: VOICEとSMICSの予備的心理計量評価(Behavioral observation tasks for selective mutism: A preliminary psychometric evaluation of the VOICE and the SMICS.)"という論文の投稿も準備中です(現時点では投稿予定のジャーナルは不明)。

今回の発表では、行動観察尺度で場面緘黙に対するIGBTの効能が確認されたと書かれています。しかし、実のところ本当にIGBTの結果、場面緘黙が改善したのかどうかは不明です。というのも、IGBTなんか受けなくても緘黙が改善した可能性があるからです。これは、同じ緘黙児で同時期に治療を受ける場合と受けない場合との両方の条件を設けることが不可能なためです。

2.場面緘黙児のアセスメントに行動観察尺度を使用

場面緘黙症の研究はいわゆる質問紙調査といって、保護者や先生、緘黙児自身が緘黙症状等に関する質問紙に回答することがしばしばあります。また、たとえ評定者が臨床医だとしても人間である以上は主観的バイアスがかかる恐れがあります。たとえば、先の場面緘黙児への統合的行動療法の効果を検証したRCT(Bergman, et al., 2013)は、行動評定が一部行われているものの、全体的にみて臨床医や親による主観的評定が主です(ただし、臨床医による評定では盲検法が用いられ、治療を受けている/受けていないことを知っていることによる評定バイアスの影響を低減させる工夫を施しています)。

また、前述した場面緘黙児への心理社会的介入の効果をRCTで検証した研究(Oerbeck et al., 2014)では、学校での発話頻度を先生が、学校や家、公共の場での発話頻度を母親が評定しており、Bergman et al. (2013)と同様、主観的評定によるバイアスの影響が懸念されます。

個人差はありますが、発声持続時間の自己評価の正確性は不完全で、大多数の人は過大推定気味です(Mehta et al., 2016)。親や先生による子供の発声持続時間や緘黙(傾向)等の評価がどれだけ正確なのか調べるためにも、携帯型発声記録装置の結果と主観的評定の結果を照らし合わせる研究が望まれます。もしバイアスが強ければ、今回のような行動観察尺度を用いる意義が高くなります(もっともこのような主張をするには行動観察尺度の計量心理学的研究を積み重ねる必要がありますが…)。

今回の行動観察尺度は場面緘黙児の治療での活用でしたが、治療開始前の状態把握にも使えるかもしれません。というかそうでないと改善具合が判断できません。まだ改良の余地はあるかもしれませんが、行動観察尺度による評定を質問紙評定と組み合わせることで、緘黙症状を多角的に把握することに役立つことでしょう。

〇その他のポスター発表、会議

なお、今回のアメリカ行動療法認知療法学会第52回年次大会では、他にも場面緘黙症の集中集団治療後のフォローアップにテクノロジーを活用した取り組み(Lacks, 2018)が報告されたはずです(予定通りに年次大会が進行したならばという条件付きですが)。短期間に治療を集中させる理由の1つには、自宅近辺に活用できるメンタルヘルス機関がなく、遠方の機関に頼らざるを得ない場合の利便性があります。しかし、フォローアップで遠位の治療所に赴くのは困難なので、テクノロジーの出番というわけです。

また、8~12歳/13~19歳の場面緘黙児童青年に対する集中集団療法でのモチベーション、エンゲージメント、般化を促すためにテクノロジーを活用することに関する会議(Furr et al., 2018)も行われたはずです。

〇引用/参考URL(2019年6月10日現在)

Furr, J. M., Avny, S., Kirmayer, L., & Kurtz, S. (2018). Using Technology Before, During, and After Intensives for Tweens/Teens with Selective Mutism to Enhance Motivation and Generalization. Clinical Roundtable at 2018 Annual Convention of the Association for Behavioral and Cognitive Therapies, Washington Marriott Wardman Park Hotel, Washington, DC. <https://www.eventscribe.com/2018/ABCT/fsPopup.asp?efp=R1FDRUhCTUg2MzM3&PresentationID=422279&rnd=0.6307768&mode=presinfo>

Hong, N., Cornacchio, D., Furr, J. M., & Comer, J. S. (2018). Utilizing Observational Measures to Evaluate the Efficacy of Intensive Group Behavior Therapy for Children with Selective Mutism. Poster presented at 2018 Annual Convention of the Association for Behavioral and Cognitive Therapies, Washington Marriott Wardman Park Hotel, Washington, DC. <https://www.eventscribe.com/2018/ABCT/fsPopup.asp?efp=R1FDRUhCTUg2MzM3&PosterID=163964&rnd=0.5062361&mode=posterinfo>

Jonathan S. Comer教授のCV 
https://nitop.org/resources/Documents/2019%20BIOGRAPHIES/2019%20CVs/Comer%20CV.pdf

Lacks, R. (2018). FaceTime versus Face-time: An examination of the use of technology in follow-up services for an intensive Selective Mutism program. Poster presented at 2018 Annual Convention of the Association for Behavioral and Cognitive Therapies, Washington Marriott Wardman Park Hotel, Washington, DC. <https://www.eventscribe.com/2018/ABCT/fsPopup.asp?efp=R1FDRUhCTUg2MzM3&PosterID=165085&rnd=0.311793&mode=posterinfo>

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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